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残り火2nd stage 第1章:今までで一番、熱い夏!

 待ち遠しかった夏休みがついにやって来る。それを考えただけで自然と口元が綻んでしまい、ひとりでニヤニヤしてしまう顔を慌てて隠すんだ。  離れているからこそ募っていくキモチとか寂しさとか愛おしさとかが、じわじわと胸の中に広がってしまう。そういう想いを更にぎゅっと噛みしめながら、穂高さんに逢うために今日も頑張っていく――。 ***  島からフェリーを使って本州に渡り、長時間の運転で疲れは幾分溜まっていたが、ハンドルを握りしめながら眺める懐かしい景色に、思わず笑みが零れる。  そこは自分が住んでいた場所であり、現在も千秋が住んでいるところ。流れていく車窓の中に、千秋が通っている大学があった。今頃、頑張っている最中だろうな。 (――船長の機転に感謝しなければ)  それは数日前の今時分。漁に行く準備をすべく、船の中に新しい網を引き入れていたときだった。  頭に巻いていたタオルが何かの拍子に落ちてしまったので、屈んで拾おうとした。それだけなのにバランスを崩してしまい、網の中へとキレイにすっ転んでしまった。  慌てて起き上がろうと手をついたところに何故か運悪く網がぐるぐるっと絡まり、外そうとしたけど余計なものまで絡まる始末。まるで蜘蛛の巣に引っかかってる、憐れな虫みたいになった。  身体の奥底で千秋を常に求めてしまい、それをどう表現すればいいか。置き場がないのも違うし、落ち着きがないともどこか違う。とにかく体全体がもう直ぐやって来るであろう千秋に、逢いたくて逢いたくて堪らない状態で、それがアクシデントの原因になっている。  俺自身はそれをどうすることもできないのが、本当に頭が痛い――。 「井上、おめぇ何やってんだ、そりゃ?」 「すみません、出港前の忙しいときに。絡まってしまいました」 「はぁ!? まったく……。ここんとこ、ありえんバカばっかりしとるがな。何か、気になることでもあるんかえ?」  船長が絡んだ網を手早く解いてくれた。俺があんなに苦労したというのに、いとも簡単に解くとか、どうしてだろうか? しかも言葉通りなので、反省しても足りないくらいだったりする。 「……あと数日で、弟がこっちに来るのが嬉しくて」 「はあぁ!? たったそんだけのことで、こんなバカやってんのか。呆れてものが言えねぇわな」 (――仰るとおりです、否定しませんよ) 「わーった。んもぅおめぇは使えんから、さっさとおとーとさ、迎えに行って来い!」 「本当ですか!? それは」  思わず船長の肩に手を伸ばして、激しく揺すってしまった。 「お、ぉおお、おいっ、落ち着げっ! まんずは、先に言うべきことがあるべさ?」   愛しの千秋に逢えると喜び、一気に舞い上がってすっかり失念してしまった、船長に対しての礼儀作法。慌てて姿勢を正して、45度に頭を下げた。 「すみませんでした、本当に。反省しております」 「よしよし、それでええ。明日の朝一のフェリーで行くんじゃろ? 今日はもう帰っていいから、ゆっくり休め」  優しい船長のお言葉に甘えて堂々と休みを戴き、こうして千秋を迎えに来ていたりする。突然現れて驚かせてやろうと考えているので、連絡できないのは実際のところつらかった。 「まぁ、バイトが終わる午前1時過ぎになったら帰ってくるだろうし、それまでどこかで時間を潰すとしよう。まずは義兄さんに、お礼を言わなければいけないか。今回の件について、お世話になりっぱなしの状態だったから」  大学門前に車を駐車して携帯に電話をしたら、ホストクラブ パラダイスの事務所にいるという返事を聞き、今すぐ行きますと手短に用件を告げて、一路そこを目指したのだった。

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