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残り火2nd stage 第1章:今までで一番、熱い夏!3

***  逃げるように出て行った穂高の顔を見て、ふたりして大笑いしながら大きな背中を見送った。 「ちょっとばかし弄りすぎたかなぁ。でも俺としては、間違ったことを言ったつもりはないぜ」 「まぁね。穂高のヤツってば、ちょっとズレてるところがあるし、誤解されるような行動を迷いなくやっちゃうからね。いい勉強になったんじゃない?」  笹川は目の前のソファに座り直して、三白眼の瞳をこれでもかと嬉しそうに細めながら、右手を差し出してきた。 「なに、その手?」 「整体料と指導料の徴収。友達割引して、きっかり10万円になります」 「高っ!! ぼったくりバーと同じじゃないのさ」  ひでぇひでぇと連呼しながら怒ってみせると、自嘲的な笑みを浮かべて肩を竦める。 「高くはないぜ。何てったって人生経験豊富な俺が、わざわざレクチャーしてやったんだ。昇さんはしたことがないだろ、駆け落ちとか」 「打算的な人生を送ってる俺からしたら、それは絶対にない話だわ。逃亡先に幸せな人生が約束されているなら、喜んでしてやるけど」 「駆け落ちした相手が昇さんと一緒で、打算的な考えをするヤツでなぁ。俺は何も知らずに、ほいほいついて行った結果、キズつく目に遭ったんだ。ま、それが原因で別れたんだけど。キズをずっと引きずったままでいたから、その後の恋愛が上手くいかなくてさ」 (今まで昴さんに恋バナを聞いても、はぐらかされてばかりで全然聞けなかったというのに、一体どうしたんだろ?) 「でも、何だかんだでモテそうだよね。違う意味で」 「ハハハ、それは否定しない。確かに違う意味でモテていたから、ケンカに恐喝は当たり前の日常だったしなぁ。でもその中で、今の恋人に巡り逢えたんだ」  語尾が消えそうな声色で告げるなりガックリと俯く姿に、何て声をかけていいか分からない。 「俺としては前の恋愛は終わったものだと割り切っていたんだが、心の奥底に引っかかったままでいたせいか、何かの拍子で態度とかに出ちゃっていたらしくてなぁ」 「だから穂高にあんなこと……」 「ああ。アイツ見てると、昔の俺みたいだなって思って。だから間違ってほしくなかったんだ、恋愛はひとりでするものじゃないってさ。こじれた恋愛をすると失敗して、離ればなれになっちまう」  昴さんの恋人は何をやらかして、刑務所行きになったのか――すごく興味をそそられたけど、傷口をえぐるようなことを言うほどヤボじゃない。 ※気になる人にオススメ【Scarfaceキズアト】に掲載中です。この作品の概要にリンクを貼ってあります。 「そんで今日来たワケは、義弟の顔を見に来たから? それとも俺の腰をわざわざ揉みに来たの?」 「確かに。昇さんの弟に興味があってこっちに来たのは事実だけど、これを預かってほしくてなぁ」  テーブルの影に置かれていたアタッシェケースを開けて、中から大判の手帳を取り出し、そっと手渡してきた。  たかが手帳――そう思って受け取ったけど、見た目以上に重たい。大きな鍵もついてるし、相当ヤバイ物なんだろう。 「何入ってんの、これ。ここの金庫にしまっておけばいい?」 「そうしてくれ。そしてその中身は、知らないほうがいいぞ。じゃないと、ヤクザと警察の両方に狙われるから」 (ゲッ、そんな物騒なモンを俺に預けるとか……) 「だったら預かり料として、10万円戴きます」  旧知の友の頼みだからこそ聞いてはやるけど、貰えるものは戴いてやるさ。  俺の言葉に、プッと吹き出して笑った。 「だったら、さっきの金と相殺ということにしてくれ。相変わらず商売上手だな昇さんは」 「まぁね。経営者として当然じゃね? あとさ……」 「なんだ?」  つられて笑った俺に、ワクワクした顔で訊ねてきた。 「昴さんの恋愛も影ながら応援するから。頑張れよ」 「昇さん……」 「浮気しないように、徹底的に見張ってやるから!」 「何だかなぁ、それって」  苦笑いを浮かべた友人に、ニッコリと素直に微笑む自分。昔なら考えられないことだ。  失ったからこそ分かる――大事なものを抱えてる義弟や友人を支えてやろうと、こっそり誓ったのだった。

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