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残り火2nd stage 第2章:波乱万丈な夏休み3
***
「ただいま~……って、あれ?」
部屋に戻ると誰もいなくて、テーブルの上は綺麗に片付けられていた。
薄暗い隣の部屋を覗くと、穂高さんが掛け布団の上で眠っているのが目に飛び込んできた。横向きになりながら寂しそうに背中を丸めて、ゆるく膝を抱えている状態――昼間もずっと運転していたし、昨日の夜だって遅くまで俺を抱いていたから、当然睡眠不足だったんだよな。
(まずは布団をかけてあげなきゃ。このままだと風邪を引いてしまう!)
「穂高さん、ちょっとだけ動かしますよっと!」
掛け布団を穂高さんの体の下から取り出すべく思いっきり動かしたんだけど、全然起きる気配がない。
「お酒のせいもあるんだろうな。やっぱり疲れていたんだ。よいしょ、よいしょ!」
動かしている内に膝を抱えていた腕が離されて、ぐったりした感じで敷布団の上に横たわった。
「そういえばこんなに布団、くっついていたっけ?」
最初に穂高さんが寝ていた場所が真ん中辺だったので、隣にある布団にまたがる形で寝させることになってしまった。穂高さんの頭からズレてしまった枕を、良さげな位置に直してあげようと動かしたら。
「ち、あき……」
突然穂高さんの両腕が腰に巻きついてきてぐいっと引き寄せられ、抱きしめられてしまった。
「ちょっ、そんなところに顔を埋めないで」
跪いていたから、浴衣が乱れていなかったのがこれ幸い。嬉しそうな顔して、すりりと頬を寄せられた場所は、身体の中でも大事なところであり敏感な部分だったりする。
「あー……もぅ。隣の部屋は電気つけっぱなしだし、穂高さんはこんなだし、全然動けないじゃないか」
部屋の露天風呂ではHができなかったのもあり、結構我慢した。他所様の卑猥な声を聞いたからではなく、穂高さんの目から滲み出る、
『千秋が、今すぐに欲しいんだよ』
という無言の圧力を浴びせられたからこそ、んもぅ煽られっぱなしでクラクラしていた。
それだけじゃなく――ここで横たわっていた穂高さんは、俺の帰りをずっと待ちわびていたんだろうな。寂しそうに膝を抱えちゃって。
「本当は一緒に、館内を散策したかったけど……」
どこか疲れた表情を浮かべたこの人を、強引に誘うなんてできなかった。
(展望露天風呂も表の景色が真っ暗であまり良くなかったから、明日の朝一にでも一緒に入れたらいいな)
まずは、掛け布団を引きよせてっと!
「これ以上、刺激を与えられたら困る……。穂高さんの腕をよいしょ、緩めて俺が下に動いて」
自分の股間を無事に守り抜くことに成功し、穂高さんの頭を自分の胸元に抱き寄せてあげた。
「寂しい思いをさせてゴメンなさい。今夜はずっと一緒にいてあげるから」
髪の隙間から見える、額に目掛けてキスをする。
「おやすみなさい、穂高さん」
いつもは俺が抱きしめられていたけど、こうやって寝るのも悪くないものだね。俺だけの穂高さんって感じがするよ。
愛おしいぬくもりと重さをこの身に感じていたら、あっという間に眠りについてしまった。
もう少しだけ長く感じていたかったのに、すごく残念だな――。
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