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残り火2nd stage 第2章:波乱万丈な夏休み4
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「ぅ、っ……喉が渇いた」
珍しく喉の渇きでふっと目が覚めて身体を動かそうとしたが、なぜだか頭だけが動かない――。
「ん?」
目を凝らして見ると、目の前にあるのは旅館の浴衣と胸元の合わせから覗く肌。そして、すぐ傍にある千秋の顔を発見することができた。
(――ああ、待ってる間に寝てしまったのか)
頭を抱き締めている腕を何とか退けようとしたが、逃がさないとばかりに両腕を使って掴まれていた。その力を抜いてもらうべく、目の前にある肌に舌を這わせてみる。
隣から漏れてくる電気の光のお蔭でその肌が胸元だと判断できたから、迷うことなく感じやすい鎖骨をなぞる様に舐めあげた。
「ふぁ……。あ、ン……っ」
身体を震わせビクつかせた途端に、一気に腕の力が抜けた。素早く身を翻して起き上がり、隣の部屋に移動する。
「これ以上はヤバい。寝ているところを起こしてしまいそうだ」
頭をポリポリ掻きながら備えつけの冷蔵庫を開け、中に入っているペットボトルの水を手に取った。それを勢いよく飲み干す――喉の渇きを癒すためと、身体の熱を冷ますために。
(まさか、あのまま寝てしまうとは思わなかったな。旅館散策から戻った千秋は寂しくなって、俺を抱きしめて寝たんだろうか?)
千秋が帰ってきた音すら聞こえず、眠りこけていたらしい。日本酒を呑むペースも露天風呂事件でイライラしてしまい、進んでしまったのが原因だ。こんな風に自らペースを乱してしまうとは。千秋が絡むと冷静じゃいられなくなるのが嫌というほど分かっているのに、ちょっとは学習しないといけない。
そう考えながら隣の部屋にいる千秋の寝姿を見て、否応なしにムラムラする。
いかん――勃ってはいけないタイミングで、クララが勃ってしまう。千秋だって毎日バイトに明け暮れながら大学でも頑張って、昨日だって俺の期待に応えるべく遅くまで頑張ってくれた。だから、休めるときに休ませなければ。
パチッと勢いよく電気を消して消灯した。自ら千秋の姿を見えないようにし、布団に潜り込む。ふわりとした熱気をその身に感じ、愛しい恋人がすぐ傍にいることを実感できた。
(今度は、俺が抱きしめてあげるよ――)
くちびるにキスしたら止まらなくなりそうだからと、綺麗なカーブを描いた頬にキスを落として腕枕をした。
「朝、一緒に展望露天風呂に入ろうか。そこで旅館散策の話を聞いてあげるね。おやすみ、千秋」
安心できるぬくもりと愛おしい重さを感じながら、すんなりと眠りにつくことができた。
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