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残り火2nd stage 第3章:青いワンピースと葵さん4
あわわっと慌てて口を開けて指を解放してあげたというのに、淫靡な雰囲気を漂わせながら強引にくちびるに指を割り入れ、そのまま俺の上顎をすりりと指で撫で擦りはじめる。
「はぁあっ……んあぅ、らめ、らよっ……」
「何を言ってるんだい、最初に仕掛けてきたのは千秋だよ。して欲しかったんだろ……ん?」
しかも俺の身体が逃げないように、布団の上に跨ってきた。
(ちょっと待って。これでも一応、病人なんですけど!!)
その後も舌を弄ばれ、散々くちゅくちゅと乱されたせいで、荒い息を何度も繰り返すしかない。
だけどタイミングがいいというのか、またしてもピンポーン♪の音が家の中に響いた。
「穂高おじちゃん、おはよー!」
元気な康弘くんの声が、家中に響き渡った。
「……くっ、またか。千秋、君は本当に人気者だな。オールマイティに好かれるなんて、ホストになったらきっとナンバーワンだよ、まいった――」
「俺は穂高さんだけのホストですから。他の人に好かれても、迷惑なだけです」
穂高さんの言葉に投げやりな感じで返答したのにも関わらず、それはそれは嬉しそうな表情を浮かべた。
「千秋が俺だけのホストなんて……。無条件に尽くしてしまいそうだ」
いやいや、充分に尽くされておりますが!?
「穂高おじちゃん、いるの~?」
「ちょっとだけ待っててくれ、手が離せない!」
「行ってあげなよ。康弘くんかわいそうだって」
「……この状態でコンニチハしたら、かなりヤバいんだが」
言いながら俺の手を掴むなり自分の下半身に引っ張って、それを確かめさせようとした。
「ちょっ、分かったから。触ったら余計にヤバいでしょ」
「ねぇねぇ、まだ~~~?」
うずうずした康弘くんが、このまま家に上がってきちゃう可能性が大かも。
「千秋が悪いんだよ、俺をこんなに乱したんだ。責任、取って欲しい」
穂高さんが俺の首筋に、大胆にも舌を這わせてきた。まるで、このヤバい状況を楽しむかのように。
「ふぅっ……。ンン、こっ、声が出ちゃう……ってば」
外に聞こえないように両手で口を押さえながら、首を横に振って必死に訴えてみた。荒い呼吸を繰り返て声を抑える俺を尻目に、穂高さんは華麗にスルー状態。
しかも――。
「よし、落ち着いた。行ってくるよ」
俺の乱れた姿と反比例していつもの様子を取り戻し、颯爽と玄関に向かってしまった。
何なんだ……。あの人の精神と身体は、一体どうなっているんだろ? かなり恨めしいぞ。
「千秋兄ちゃん、おはよう。具合は大丈夫?」
穂高さんに連れられ、居間からそっと俺の様子を伺う康弘くん。
起き上がりつつ、体育座りをしてしっかり下半身を隠し(そんなことしなくても布団で隠れているんだけど、念には念を入れてみた)ニッコリと微笑んであげる。
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」
「でも、頬っぺたがすっごく真っ赤だよ。熱が高いの?」
心配そうにしてる康弘くんの後ろで、意味深に笑っている穂高さん。この人のこういうイジワルなトコ、やっぱり好きくない!
「あ~うん、ちょっとだけね。それにしても俺が風邪を引いたの、誰に聞いたのかな?」
「朝ご飯ができるまで家の前で遊んでたら、すおー先生が来たの。千秋兄ちゃんが風邪引いたことを教えてくれたんだよ。お前も気をつけなさいって言われた」
「そ、そうなんだ。へぇ……」
周防先生ってば、もしかしてスピーカー!?
「お母さんが美味しい玉子粥を作るから、朝ご飯少しだけ待っててくださいねって言ってたよ」
「そうか。ヤスヒロだけじゃなく、葵さんにまで心配させてしまったね。ありがとうって伝えてくれないか?」
優しく頭を撫でながら穂高さんが言うと、頷いて飛び出すように居間から玄関に向かって、出て行ってしまった。
いろんな意味で、心臓に悪い――。
「どうしたんだい? そんな疲れた顔して」
「あ、それ以上近づかないでください」
玄関から戻ってきた穂高さんに向かって両手を前に突き出し、寝室に入るなをしっかりとアピールする。さっきのように傍にいたんじゃ、いろんな意味でゆっくりと寝ていられないからね。
「ふぅん、別にいいが。さて、と」
見舞いの品がたくさん置かれたテーブルに向かって何かをしてから、玄関に消えてしまった姿を目の当たりにしていると――。
再び戻ってきて俺の顔をわざわざ見ながら、いそいそとTシャツを脱ぎ始めた。
均整のとれた筋肉質の上半身に、思わず見とれてしまう。
(――いつもあの胸の中に、俺は抱かれているんだな)
見慣れているはずなのに目を奪われてしまう理由は、きっと遠くから見ているからだろう。
「どうしたんだい、千秋? 随分熱心にこっちを見ているようだが」
「へっ!? そんなに熱心でもないって」
図星を指されてあたふたする俺を尻目に、ニヤニヤしながら履いているジーパンに手をかけた。
「そんな風に見つめられると、脱いでいくのが楽しくて仕方ないね」
素早くジーパンだけを脱ぎ、床の上に放り投げる。
「どっ、どうしてそんなトコで服を脱ぎ始め……っ、わわっ!?」
入らないでと頼んだのに堂々と入ってきて、さっさと俺の上に跨った穂高さん。
「どうしてだと思う? ね?」
「耳元で喋らないでくださいよっ、くすぐったい。それに俺は、病人なんですからね!」
「分ってる、だから優しくしているじゃないか」
どこがだよ! 全然優しくないってば!!
「病人のクセに、ここからかなりやらしい目で俺を見ていたのは、どこの誰だい?」
「ちがっ! そんなんじゃなくて、その……俺とは違って、綺麗だなって思っただけで」
「違うだろ。こうしてほしいって顔に書いてあった」
俺の頭を胸元に抱き寄せて、ぎゅっと抱きしめてくれる。
「……穂高さん。誰か来ちゃうかもよ」
直に触れ合っている肌が、すごく熱い――穂高さんのドキドキが伝わって、更に俺の心音も上がっていくよ。
「大丈夫だ、抜かりない。風呂に入ってると張り紙をしておいたから、しばらくは安心さ」
ああ、もう――こういう用意周到なトコ、すっごく好きだ。
「……大事な君の身体を慮ってやれなくて、本当に済まないと思ってる」
「穂高さん?」
「千秋が傍にいると、どうにも自制が利かなくてね。離れていた分を埋めようとか、そんなことを考えているわけでもないのに、いつも求めてばかりいた」
ぎゅっと抱きしめられながら告げられる穂高さんの声は、とても耳障りがいい。しかも自分のことばっかり責めているのを聞いているのに、愛しさが募っていくのは、どうしてなんだろう?
「穂高さんばかりが悪いわけじゃないよ。俺だって実際は求めていたし、嫌だったら全力で拒否るから。出逢った頃みたいに」
すべすべしている背中を、てのひらでゆっくり撫でてあげた。
「千秋……君は優しいね。だからずっと傍にいたくなる。君の中に沈み込んで、溺れてしまいたくなるんだ」
キツく抱いていた腕をそっと緩めて俺の顔を見てから、優しくくちびるを重ねる。
風邪がうつるかも――一瞬だけそんな考えが脳裏を過ぎったけれど、求めてくる穂高さんを拒むなんてできなかった。
「うぅ……。んぁ、ほ、らかさ、んっ」
撫で擦っていた穂高さんの背中に、がりがりっと爪を立てる。
「ち、あき。千秋、求めてくれ、も、っと……」
それ以上のことをしなかった穂高さんは、俺のくちびるを貪りながら熱に浮かされたように、名前を呼んでくれた。
いつもより激しいことをしていないのに名前を呼ばれるだけで、こんなにも感じてしまうのは、どうしてなんだろう?
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