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残り火2nd stage 第3章:青いワンピースと葵さん13
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千秋にやられた――何なんだ、その無防備で無邪気な顔は……。
手を出さない作戦で、まんまと罠にかけてやろうと企んでいたのに、いきなり子ども扱いをされ、頭を撫でられている内に押し切られてしまった。ヤル気満々な俺の気持ちをへし折るような純真な対応に、心を打ち抜かれてしまうなんて。
「さすがは、千秋といったところか。この俺を黙らせるとは、たいしたものだ」
台所で忙しなく動く背中を見やり、次の作戦を考えた。やられたまま終わるとは、思っていないだろうな。逆にそこをついてあげるよ。
立ち上がって千秋の背後に立つと、シャツの裾をくいくいっと引っ張った。
「何ですか?」
「先にシャワー浴びてくる。服……脱がしてくれ」
「"o(-_-;*) ウゥム……」
右手に持った包丁が、ふるふると揺れている。俺の作戦に気がつき、コイツは――って思っていることだろう。顔を赤らめさせて困惑している表情が、結構好きだったりするんだよな。
「ゴメンね、千秋。穂高くん的には、上手く脱げなくって」
「Σ(~∀~||;)ゲッ……。穂高くん的って」
「手間のかかる男は、好きじゃないよな。やっぱり自分でやるよ」
身を翻すように背中を向けたら、着ているシャツをぎゅっと掴んできた。優しい君は、俺を見捨てることなんてできないだろう。
「脱がしてあげますから! ちょっと待ってくださいって」
(――ほら、ね。かかってくれた)
「……いいのかい、千秋?」
「いいですよ。手を洗ってっと。はい、こっち向いて下さい」
「全部、脱がしてくれ( ̄ー ̄)ニヤリ」
笑い出したい気持ちをぐっと抑えつつ、神妙な顔を作って千秋を見下ろすと、渋々言うとおりにやってくれた。
たまには脱がしてもらうのも、いいものだな――。
「あ……」
おっと、クララが勃ってしまった。いかんいかん!
「穂高さんっ、何を考えて……」
「いやぁ千秋の触れてくる手が、所々いやらしい感じがあって」
「そんなの酷いっ、普通に接してましたから!」
「へぇ天然か。それは厄介だな」
顔を真っ赤にして怒る千秋を尻目に肩を竦めて、風呂場に向かった俺。
――穂高くん的な作戦、まだまだ続けさせてもらうよ。
鼻歌を歌いながら仕事の汗をシャワーでさっさと流し、濡れた身体を手早くタオルで拭く。だが、頭は緩めに拭うだけにしておくのがミソ。
トランクスを履いて首にタオルをかけ居間に戻ると、テーブルの上には朝ご飯の用意がいい感じでなされていた。
「穂高さん、髪の毛から雫が落ちてますよ」
「おかしいな。しっかり拭ったはずなんだが」
「こっちに来て、しゃがんでください。拭いてあげますから」
しょうがないなぁという表情を浮かべながら、こっちこっちと手招きしたので、嬉々として言われた所に座った。
俺の首にかけていたタオルを手にとって、力強くごしごしと髪の毛を拭ってくれる。
ャバィ・・(-ω-;)あまりの気持ちよさに、このまま堕落していきそうだ。
拭っているタオルの端からチラチラと見え隠れする、目の前にいる千秋に目をやる。
まったく……もうと文句を言いながらも、濡れまくっている俺の髪の毛を拭いている姿は、どこか嬉しそうに見えた。
出逢った時から変わらない、君のそういう優しいところをまんまと利用している俺は、とても汚い人間なのかもしれない。
「千秋……」
――そんな俺を愛してくれる君を、全力で愛してあげる……。
頭を拭っている両手首をバッと掴んで、勢いよくその場に押し倒した。
「わわっ!?」
ごんっ!!
失敗……勢い余って、千秋の後頭部を床にぶつけてしまった。
「悪い。あまりにも千秋が色っぽくて、勢いがついてしまった」
「なに言ってんですかっ。俺は何もしてませんって」
両手首を掴んで身体ごと押さえ込んでいるというのに、じたばた動いて抵抗する表情に、煽られてしまうというのに。
「千秋のそういう表情がいちいち可愛くて、俺はどうにかなりそうなんだよ」
「どうにかって!? んもぅ、手を使ってる。ズルイですよ、穂高さんっ」
「手の存在は忘れてくれ。穂高くん的には、もう我慢の限界なんだ」
ぐいぐいと腰を押し付けてやると、途端に綺麗な桜色に染まっていく頬。
「やっ……ダメですってば。1週間しないって自分から……っ、言っておいて、そっ、そんなこと……」
「穂高くん的には看病頑張ったから、ご褒美がほしいのだが――どうだろうか?」
真っ赤になってる千秋をじっと見つめると、瞳をうるうるさせながら困った顔をした。
……食べたい、今すぐに――でもダメだ、自分から手を出せないからね。千秋が求めてくれなきゃ。
「だったら譲歩してあげよう。先っぽを挿れるだけで止めてあげる」
この状態なら、もどかしくなり必然的に腰を動かすのは千秋の方なんだ。
「何の譲歩をしてるんですかっ!? 意味が分かりません」
意味分からないと言いつつ、顔が真っ赤だよ千秋。
「ん~、じゃあ先っぽの3分の2と思ったけど、3分の1で手を打ってあげる。ほんのちょっとだよ」
「何がほんのちょっとですか。絶対に、そんなんじゃ終わらないくせに」
(――終わらせないようにするのは、君の方なのにね)
「じゃあオマケをつけようか。先に千秋をイカせてあげる」
「それって、穂高さんのオマケでしょ!」
「確かにぃ……。穂高くん小さいから、オマケが必要だもんな」
「うわっ、こんなときだけちびっ子になるなんて。んもぅ、朝ご飯が冷めちゃうから! 退いてくださいよ」
俺の言葉を物ともせずに、珍しく抵抗を続けた。これだけ元気なら、1回くらいヤっても平気そうだな。
というかもう少しだけ穂高くん作戦を続行して、精神的に揺さぶった方が良かったのかもしれない。千秋と繋がりたくて、つい焦ってしまった。
「何、アヤシイ目をしてるんです……。重いですよ、潰す気ですか?」
「じゃあ俺が下になるから、千秋は上にどうぞ」
掴んでいた腕を離して身体を抱きしめ、くるんと回転してやる。
「ちょっ、いきなりっ!」
んー……やっぱり寝込んだせいだろうか。千秋の体重が、軽くなっているような気がする。
「……先にご飯を食べようか」
「へっ!?」
「まずはたくさん食べて、千秋をお腹いっぱいにしてからだな」
よいしょっと言いながら千秋ごと体を起こしたら、いきなりぱしぱしと両頬を叩かれた。
「どうしたんだい?」
「どうしたは、こっちですよ。あっさりと身を引いたから」
信じられないといった感じで、まじまじと顔を見つめる。
「やっぱり千秋の言うとおり、ご飯を食べなきゃいけないなぁと思っただけだよ。せっかく作ってくれたんだからね」
――自分の欲望よりも、千秋の身体を優先させなければなるまい。
そう心に刻み込み、先にテーブルについた。少しだけ冷めてしまった朝ご飯だったが、千秋が作ってくれたのでとても美味しく戴ける。
「穂高さん、何かよく分からないけど、ありがとね」
「ん……? 俺は何もしてないが」
「……一緒にご飯食べてくれて、ありがとね」
どこかくすぐったそうな表情を浮かべながら告げた千秋の感謝の言葉が、俺の胸にやけに染み渡る。
朝からいろんなことがたくさんあったが、こんな風に時間を共有できるのもいいことだと、改めて思い知らされたのだった。
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