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残り火2nd stage 第4章:あいさつ2

*** 「さて、と」  家に到着して居間に入ってから俺を床に置き、スマホを弄りだす穂高さんに恐るおそる話しかけてみる。 「あの……イタリアの時差は大丈夫なの?」 「問題ない、いつでもかけてくれと言われてるからね。あ、もしもし父さん。昨日の電話の返事なんだが――」  ビビりまくる俺を尻目に、和やかに会話が進められていった。どうしても時差が気になったので、自分のスマホでイタリアの時間を調べてみる。 「ゲッ! 時差が-7時間ってことは、イタリアは完全に夜中じゃないか……」  きっと寝ていた時間だと思われる、午前1時半過ぎだった。俺に逢わせる関係とはいえ、恐縮してしまう。  体をちぢ込ませて穂高さんを見たら、目を大きく見開いて啞然とした表情を浮かべていた。 「えっ!? ちょっと待ってくれ、それは困る。だって、あ……」  珍しく声を荒げたと思ったら、そのまま固まったし――。 「あの、どうしたの、穂高さん?」 「……父さん嬉しさのあまりに、空輸でワイン送るからって言ってくれたんだが、もしかして樽で送ってくるような気がしてならなくてね。しかも会話の最中に切ったのを考えると、今から手配するだろうな」 「た、樽ぅ!? まさか……そんな」  苦笑いを唇に浮かべながらテーブルにスマホを置き、人差し指で頬を掻きながら俺の顔を見た。 「考え方がね、庶民とちょっと違うから。スケールが大きすぎるところがあって、話についていけない場面が多々あったんだ。だけどそんなにしょっちゅう、やり取りしていないこともあり、目をつぶっていたのもあってね。それが失敗だったかも」 「庶民と違う感覚の持ち主なんだ、穂高さんのお父さん」 「ん……しょうがないと思う。ベルリーニの家に生まれた人だからね」 (ベルリーニの家って、ちょっと待ってよ――) 「ほほほ、穂高さん……アメリカのD社とアミューズメントパークを競ってる、世界でも有名なあのベルリーニ社の家の人だったりするの?」 「そうだよ。だから仕事の話を聞いてると、とても楽しそうに語ってくれたんだが、いかんせん凄すぎて、自分がちっぽけな存在に感じてしまったな」 (お父さんがベルリーニの家の人で、その血を継いでいる穂高さんは、ベルリーニの仕事をしなくて大丈夫なのかな?) 「大丈夫だよ千秋、不安そうな顔をする必要はない」 「へっ!?」  宥めるように、俺の頭を撫でてくれる。何度も――。 「ベルリーニの後継は、父さんの弟が引き継いだから。今の俺には何の縛りもない。好きなことをして生きていられるんだよ」 「本当に大丈夫?」  ――ある日突然、イタリアに行ったりしない?  いきなりの展開に、胸の中にいらない不安がむくむくと膨れ上がってしまい、焦燥感に駆られてしまう。 「……困ったな。そんな縋るような目で見つめられたら、押しとどめていた理性が吹き飛んでしまう」 「何を言って――」  こんなに心配してるというのに、穂高さんは俺の不安を蹴散らすような笑顔を口元に湛えてみせる。 「俺はここで、君を待ってると言っただろ。だから安心して千秋」  頭を撫でていた手がゆっくりと後頭部に回されるなり、穂高さんの身体に引き寄せられる。近づいてくる吐息を感じたので目を閉じたら、そっとくちびるが重ねられた。 「んっ……」  穂高さんのキスに酔いしれたかったのに、すぐに離されてしまった。どうにも名残惜しくてシャツの襟をぎゅっと掴み、自分に引き寄せる。 「随分と積極的だが、ここではしてあげないよ。直に肌に触れながら貪りたいから」  口元で告げられた言葉のせいで、頬に熱を持ってしまった。照れる俺をその場において颯爽と寝室に向かい、何かを手にして戻って来た。  見慣れないピンク色したボトル――嫌な予感しかしない……。 「プランAにオプションをつけることになったから、ご用意させて戴きました。お客様」  言いながらボトルを目の前に掲げ、丁寧に頭を下げる。 「あの……それは何ですか?」  プランAの実態も分からないまま、アヤシげなボトルまで登場してしまい、顔を引きつらせながら困惑した。そんな俺を他所に艶っぽい笑みでボトルを小脇に抱えると、いそいそ服を脱がしにかかってくれる。 「穂高さん、それっ」  声を荒げてやったというのに、ますます嬉しそうな表情で俺が着ていたシャツを脱がしていく。 「ん……キレイ」  言いながら、首筋に舌を這わせようとする。それを阻止すべく、頭をむんずと掴んでやった。 「んもぅ、答えてくださいよ」  ナニが行われるか分からないゆえの、警戒するこの気持ちを理解して欲しいんだけどな……。いや、間違いなく気持ちのイイことなんだろうけど。 「最初は裸を見られることをすごく嫌がっていたのに、最近は堂々としているね」 「はあ、まぁ……」  感じている姿じゃなければ、家の中を歩く分には平気になってしまった。慣れって怖い。 「しかも俺の裸も、まじまじと見る余裕までついてしまって。あれ、結構クるんだよ。視線だけで感じさせられてる気分」 「卑猥な気持ちは、まったくないんですけど。ただ、カッコイイなって思って」  自分とは違う穂高さんの裸は、本当に惚れぼれするくらいカッコイイ。  ほんの少しだけ焼けた素肌に、適度に厚い胸板。引き締まったお尻の下に伸びる、すらっとした長い足等など、他にもうっとりするパーツがたくさんあって、ずっと見ていたいくらいだった。 「恥ずかしがり屋の千秋が、俺のせいでいろんなことに慣れてしまったじゃないか。その内に刺激が足りなくなるんじゃないかと、コッソリこれを用意したのだが」 「そんなのいりませんよ。穂高さん自身が刺激ありすぎですから」 「俺の、ナニ?」 「そうじゃなくって。穂高さん本人って意味ですから!」 (ああ、もう日本語って厄介――) 「じゃあ言葉を変えようか。昨日ヌかずにガマンした千秋に、これを使ったサービスを褒美として贈呈しよう」  この人は、何が何でもコレを使いたくて堪らないんだな。俺を困らせることに関して、容赦がないというか、まったく……。  じと目で穂高さんを見つめながら、無言で首を横に振ってやった。すると顎に手を当てて、しばし考え始め――。 「千秋の褒美じゃなく、俺の褒美にしよう!」  なぁんてワケの分からないことを言い出す始末に、ガックリとうな垂れるしかない。このうな垂れた仕草が勝手に了承と判断されてしまい、まんまと浴室に連行されてしまったのだった。

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