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残り火2nd stage 第4章:あいさつ6

***  朝から軽く吐き気がしていた。  現在に至っては胃がキリキリしている状態に移行し、渋い顔をしている。夕方に着くという穂高さんのお父さんが乗ったフェリーを、ふたりで並んで待っていた。  お腹を擦っている俺に苦笑いながら、頭をくちゃくちゃと撫でてくれる。 「千秋、そんなに緊張しなくていいのに。とって食われたりしないよ」 「うっ……。誰が変な話を作って、俺の精神を散々翻弄させたんでしたっけ? あれのせいで、緊張感が二割増になったんですよ!」 「ハハハ、さて誰だろうね。そんな悪いことをしたのは」  しれっとした顔して、あらぬ方に視線を移した穂高さん。イジワルな恋人を持つと、マジで苦労しっぱなしだ。  文句を言ってやろうと口を開きかけたそのとき、汽笛を鳴らしたフェリーが、どんどん近づいてきた。 「ヒェ━━━━━(;゚;д;゚;)━━━━━!!」 「ぷっ! さっきから百面相だね。面白いよ千秋」 「だっ、だってしょうがないでしょ。大好きな人の親に逢うんだよ、緊張しないヤツはいないって、絶対に!」  なので、嫌われないようにしなきゃならない。第一印象って大切なんだ、挨拶を完璧にっと。 「大丈夫だよ。だって千秋だから」  両手を握りしめ、ぶつぶつ挨拶の練習をしている俺の背中を叩きながら、説得力に欠ける言葉で元気づけられても、まったく効果をなさない。  穂高さんの余裕、少しでもいいから分けてほしい――。  羨ましく思っている内にフェリーが岸壁に横付けされ、程なくしてお客さんが数人、かたまった様子で降り立っていく。少ない人数だからこそ、すぐに見つけてしまった。 「わ……」  穂高さんと同じ髪色をした背の高いその人は、俺たちの姿を見つけた途端にニッコリと微笑みながら右手を振り、足早に駆け寄って目の前に現れた。  ぶわっと全身の血が巡るのが分かる――緊張のせいで体がガチガチになっちゃって、挨拶の言葉が耳から抜けていってる感じがした。  お父さんは何も言わずに、穴が開きそうな勢いで俺を見つめた。  穂高さんよりも背が高くって、体も大きいからその圧力はハンパなくて、俺はただただ見上げるだけしかできない。  斜め分けにされたサラサラな栗色の髪。その下にある瞳は、空の色と同じ青い色をしていた。それは穂高さんの家にあった、ワンピースを髣髴とさせるものだった。  穂高さんの堀の深い顔立ちは、お父さん譲りだったんだな。思わず見惚れてしまう――。 「……千秋?」  こそっと穂高さんが俺の袖を引っ張ったお蔭で、はっと我に返る。 「うぉっ、その、大変失礼しましたっ。紺野千秋と申します、はじめましてお父さん!」  シュバッと音がする勢いで慌てて頭を下げたんだけど、声がかけられる気配がまったくなく、無言を貫かれてしまった。  もしかして、日本語で挨拶をしたからなのかもしれない。ここは影で練習したイタリア語で挨拶すべきだよな、うん。  意を決して頭を上げ、お父さんの顔を見つめながら口を開いた。下手なイタリア語かもしれないけど、とにかく伝えなくちゃと思った。 「Piacere di conoscerti papa. Il mio nome e Chiaki Konno」  たどたどしい発音だけど、伝わるように区切りながら喋ってみた。言い終えた後、全身に変な汗が滲んでいるのに気がつく。ホント、情けないなぁと呆れ果てた。 「はじめまして、千秋。上手なイタリア語で挨拶をしてくれて、どうもありがとう」  イタリア人とは思えないくらいの、流暢な日本語で返事をされた。それに驚いていたら、突然ぎゅっと抱きしめられてしまう。 「君のようにステキな人が、穂高の恋人で良かったよ。あまりの可愛さに、イタリアに連れ帰りたいくらいだ」 「へっ!?」  抱きしめられながら頭をこれでもかとぐちゃぐちゃに撫でられてしまい、どうして言いか分からず、体の隙間から隣にいるであろう穂高さんを見たら、口元を押さえてクスクス笑っていた。  困ってる俺を見て、目に涙を溜めて喜んでいる姿が憎らしい――。 「あっ、あの……」  穂高さんが助けてくれそうにないことが分かった俺は、じたばたするのも癪なので自分で何とかすべく、お父さんの大きな背中に腕を回し、落ち着いてくれという意味を込めてトントン叩いてみる。 「穂高と違って、とても小さくて華奢ですね。思わず保護したくなってしまいます」 「ほ、保護!?」 「ずっとこの腕の中に抱きしめて、守ってあげたくなります。しかもさっから、いい香りも漂っていますしね」  いきなり髪にキスを落してくれるとか、お父さん……。朝からずっと緊張しっぱなしでおかしくなりそうなトコに、こういうのをされたら血管がブチ切れそうなんですけど。 「この香りをかいで寝ることができたら、さぞかし安眠できそうです。どうでしょう? 今夜は一緒に就寝を共にしませんか?」 (うわぁあぁ、話がすごいところに流れていってるぞ)  お父さんは腕の力を弱め、焦りまくる俺の顔を覗き込んだ。穂高さんによく似た顔つきが傍にあるだけでもヤバいのに、吸い込まれそうな青い瞳でじいっと見つめられ、ドキドキしない人は絶対にいないと断言する! 「むっ、無理です。ゴメンなさい」 「穂高の父である私が頼んでいるのに、断るというのですか?」 「ひぃ……そ、それは、えっと……」  このタイミングで父親の特権振りかざすなんて、この強引さは親子ならではだったんだな。 「千秋、君は私の横にただ静かに、横たわってくれるだけでいいのですよ。簡単でしょ?」 「簡単と仰られても、ですね……」 「横たわった君を、私はこうやって優しく抱きしめて、頬ずりしながら眠るだけですから、ね」  優しくと言ったのにこれでもかとぎゅっとしてくれた上に、スリスリされてしまった。  断りたいのに穂高さんのお父さんという立場ゆえ、どうしていいのかグルグルしまくって、分からなくなってしまった。 「本当に可愛いコですね。ずっとこうやって、されるがままでいて」 「あ、わわっ!?」 「父さん、そろそろ千秋を開放しないと、オーバーヒートしてしまうよ」  笑いを堪えた声で穂高さんが言ったのだけど、腕の力を緩めることなく、なぜだか現状維持する。 「オーバーヒートって、私は普通に接しているだけですよ穂高」 「父さんの普通は、海外仕様でしょ。日本人の千秋には、刺激が強いんですって」 「ははん。穂高、君は私に嫉妬していますね? 大好きな千秋がこうやって、他の男の腕の中にいるのは面白くないですよね」  言いながら更に頬をすりすりされてしまい、俺はもう目の前がぐらぐらしてしまって、立っているのがやっとだった。 「いえ、別に。父さんと千秋が仲良くしているのは、とてもいいことだと」 「では私が千秋と、就寝を共にしてもいいのですか?」 「しっ、しませんっ! 俺は穂高さんと寝ますので!」  懇親の力を込めてお父さんの腕の中から抜け出し、一生懸命に大きな声を出してお断りの台詞を言い放った。それなのに――。 「千秋、父さんが一緒に寝たいと言ってるんだ。一晩だけお願いできないかい?」  エ━━━(;゚д゚)━━━・・ 「さすがは穂高。よくできた息子です、心が広いですね」 「当然のことですよ。千秋の良さをぜひとも、父さんにも知ってほしいですし」 「ぁ、あのぅ……?」  俺の良さって――俺の良さを、どうやって分からせるというんだ?  ぴきんと固まる俺の目の前で、穂高さんとお父さんはニギニギと握手を交わして、意味深な笑みを浮かべている状態。勝手に一緒に寝る件が取り交わされている模様に、焦るしかない。 「それじゃあ、千秋をお借りしますね。全裸で」 「いいですよ。お好きなようにどうぞ」 (ぜ、全裸って裸ってことでしょ。どうしてOKしちゃったの穂高さんっ! しかもお好きなようにって、ちょっと酷すぎやしないか?) 「それでは、好きにさせてもらいます。頬ずりだけで止まらなかったら、どうしましょうか千秋。そのときは、君が教えてくれますか?」  ふふっと笑って俺の左手を取り、甲にくちびるを押し付けられてしまった。穂高さんとは違う、どこかひんやりとしたキスのせいで、変にドギマギしてしまい顔から火が出そうだ。 「お、教えるって何を――?」  赤面しながら恐るおそる訊ねる俺もバカだと思うのだが、掴まれてしまった左手を引っ込めることもできないだけじゃなく、穂高さんに助けを求めることもできずに右往左往するしかない。 「そんなことを聞いてくるなんて、もしかして自ら誘っているのでしょうか?」 「違っ、そんなんじゃなくって、全然誘ったつもりはないです。微塵もありませんっ、これっぽっちもないです、はいっ!」 「千秋、さっきからしている君の態度は、誘われているようにしか感じませんよ。頬を染めあげ瞳を濡らして私を見上げながら一生懸命に否定しても、肯定しているように思えてなりません」 「そんな……」  俺を掴んでいた手をゆっくりと離して腕を組み、鋭い目つきで見つめられた。途端にすくみ上がってしまう。 「このままじゃ、穂高との付き合いを認めるわけにはいきません」  ハッキリと告げられた言葉に、くっと息を飲んだ。もしかしてだけど、今までのことって俺を試すために、ひと芝居を打っていたのか!? 「穂高、彼にいつも愛のある言葉を語りかけているのでしょうか?」 「自分なりに、伝えてるつもりなのだが」 「つもりではダメです。芯から貴方の気持ちが伝わっていないから、彼は他の人の言葉に、簡単に揺れ動いてしまうのです」  お父さんからの厳しいひとことに、穂高さんは口をつぐんでしまった。でも悪いのは穂高さんじゃない、俺なんだ! 「お父さん、それ以上穂高さんを責めないで下さい。穂高さんは毎日、苦しくなるくらい、たくさん想いを伝えてくれてます。なのに俺がハッキリしないで、流されちゃったのがいけないんです。だから」 「千秋っ」  両サイドに下ろしていた拳に、ぎゅっと力をいれて握りしめる。 「悪いところは、絶対に直します。穂高さんにふさわしい男になれるように、努力を怠りません」  お腹から声を出して言い放つと、穂高さんがいきなり抱きついてきた。 「穂高、彼から離れなさい」 「イヤです。父さんに反対されても、俺は――」  痛いほど俺の体をぎゅっと抱きしめながら、首を横に振る穂高さん。少しだけ怒ってるお父さんの眼差しが、ぐさぐさっと突き刺さる。 「彼の気持ちを、考えておあげなさい。そんな風に君がしがみついていたら、千秋は私に頭を下げることができないでしょう?」  いろんな感情で震える体を抑えるのが必死で、穂高さんの腕を振り解けずにいた。情けないけど、この言葉はあり難いくらいだ。 「穂高に仕事を与えます。このカバンを家に置いて来てくれますか? ゆっくりと行ってくださいね」 「それは……」 「千秋とふたりきりで話がしたいんです。穂高はさっきから邪魔ばかりして、私は困っているのですよ」  お父さんは強引にカバンを手渡し、穂高さんの背中を押す。 「いいですね? ゆっくり歩いて行ってきてください」  しっかり念を押して俺の手首を掴み、ぐいっと引っ張った。 「穂高がお世話になっている職場に、案内してくれますか?」 「はい、分かりました」  言われた通り漁協に行く道に向かって歩を進めると、掴んでいた手首を離した。 「穂高に、随分と手を焼いているでしょう。まるで大きな子どもを見ているようでした」  苦笑いしながらお父さんが話し出す。言われたことは事実だったけれど、それすらも愛おしいと感じているので、曖昧に微笑んで誤魔化した。 「イタリアの私の元に来た際に、これまでのいきさつを聞いてます。穂高が君を振ったというのに、ここまで追いかけてくれたことには、とても感謝しますよ。有難う千秋」  わざわざ立ち止まり、頭を下げる姿に恐縮しまくりだ。 「こっ、困ります。お願いですから、頭を上げて下さい!」  追いかけてほしいと穂高さんのお義兄さんの藤田さんに頭を下げられたのとは違い、あのときのことを感謝されるなんて、驚く以外に感情の示しようがない。 「でも追いかけた理由は、本当のことを知ったからなんです。事実を知らなかったら穂高さんの気持ちを尊重して、別れていたと思います」 「穂高は、母親の瑞穂と同じことをしたんですね。やはり親子というべきなのか……。追いつかれないように、歩きながら話をしましょうか」  さっきまでしていた厳しい表情がなくなり、やるせなさそうな顔をした。それは穂高さんが別れを告げたときに見せた表情にどこかよく似ていて、何だか胸が痛くなってしまう。 「1度君を手放してその辛さを痛感したからこそ、離さないようにすべく、べったりと依存しているのでしょう。ワガママな息子でスミマセン」 「あの、最初からあんな感じなんで、違和感なく接しているんですけど」 「違和感なく尽くしていられるのは、千秋、君が強いからです。それとも甘やかしているのかもしれませんがね」  ひょいと肩をすくめて、お父さんは笑いだした。 「どちらかといえば、甘やかされているのは俺の方なんですけど……」  心に染み入るような低い声で愛を散々囁かれ、足腰が立たなくなるくらい気持ちのいいコトをいつもしてもらっているのは、俺なのだから。どこからどうみても、甘やかされっぱなしだと思う。 「お母さんにかまってほしい子供は、あらゆる手を尽くしてイタズラをしますからね。困ったものから微笑ましいものまで、いろいろと」 「(゚o゚;) ハッ」  穂高さんが子ども説っていうのは、結構当てはまりすぎて否定できなくなったぞ。 「それまであのコの過ごしていた環境が、多少なりとも影響しているでしょう。三つ子の魂は百までと言いますからね。千秋の苦労は続きますよ、きっと」  やんわりと告げられた言葉に、ふと足を止めてお父さんの顔を見上げた。強い光を放つ青い色をした瞳に負けないようにしっかりと見つめ返して、そして――心を込めて口を開く。 「苦労なんて、背負ってナンボです。今は穂高さんとふたりで背負っていますけど、そんなの平気だって笑っていられるくらい、余裕のある大人になれるように頑張ります。だから――」 「…………」 「だから俺に、穂高さんをください。お父さんっ!」  強請るものの大きさに、押しつぶされそうになってる自分がいる。だけどどうしても欲しいと願ったから、キッチリ頭を下げて頼んでみた。頼りない俺を見せてしまった後だけに、どんなことを言っても、ムダな足掻きになってしまうだろうけど。 「頭を上げてください、千秋。大丈夫ですから」 「大丈夫?」  両肩に手を置かれ、強引に上げられてしまった頭を、最初のときのようにくちゃくちゃと撫でられまくった。 「穂高から聞いた君のことと自分の目で確かめたのを合わせて総合判定しても、安心して任せられる基準に達していますから」 「でもさっき、認められないって――」 「そう言えば、必死になって頼み込んでくると見越したのです。君がどのような言葉で私を説得するのか、見てみたかったから。追い詰められると人は、自分のホンネを口にします。ついでに穂高の甘ったれぶりも垣間見ることができて、親としてはガッカリしたのですが」 「あ……本当に穂高さんと付き合って、いいんですか?」  どうしよう――今更ながらだけど沸々とこみ上げてくるものがあって、声が震えてしまった。 「誰にだって悪いところはあります。それをきちんと認めて、直すと言った君を心から信用して応援しますよ……。ということで、後ろで指をくわえて話を聞いていた穂高、分かりましたか?」  はーっと大きなため息をつき、後方を見やるお父さんの視線に合わせて俺もそこを見ると、ちょっとだけ瞳を潤ませた穂高さんが、困った顔して突っ立っていた。  俺たちの視線を受けながら俯き加減でツカツカ歩いて来ると、さっき抱きついたのを反省したのか、間をおいてから俺の右手をぎゅっと握りしめ、そして目の前にいるお父さんに、ゆっくりと頭を下げる。 「認めてくださり、有り難うございます。ありがと、ぅっ」 「穂高さん……」 「まったく。困ったコですね、こんなことくらいで涙するなんて」  はーっと呆れたような大きいため息をつくお父さんに、顔を上げた穂高さんが憮然とした表情を浮かべた。 「父さんにとっては、こんなことかもしれませんが、俺にとってはとても大切なことなんです。感動して涙してしまうのは、当然だと思いますが」 「男は、簡単に泣くものではありませんよ。千秋をご覧なさい、彼は涙を浮かべずにしっかりと私に頭を下げました。穂高よりも、しっかりとした男です。見習いなさい!」  お父さんに怒られながら、隣にいる俺を見下ろした穂高さん。白目が赤くなっていて感動して泣いているのか、はたまた叱られて泣いているのか、見た目じゃ分からない状態だ。 「それとも私の元で訓練して、強くなりますか?」 「……イヤです。ここにいます」  鼻をすすりながら告げると、いきなり俺の体を引き寄せるなり、胸の中にぎゅっと抱きしめた。これってますます、怒られるパターンだと思うんだけど。 「ほ、穂高さんダメだよ。ちゃんとしなきゃ」  注意を促し、腕を振り解こうとしてる矢先に、ますます力を入れて抱きしめるとか困った人だな……。 「穂高、千秋は頼りになる恋人かもしれませんが、今はまだ成長段階で完全ではありません。見た目はしっかりとした立派な柱に見えますが、中身がスカスカしているのです」  スカスカな柱の俺って( ̄_ ̄|||) 「一方、君の柱はそうですね……。割り箸くらいの太さでしょうか、簡単にパキッと折れます。千秋に何かがあったときに割り箸レベルの太さで、果たして彼を支えることができるのでしょうか?」 「それ、は――その……」 「千秋は穂高にふさわしい人間になるといいましたが、逆ですよ。もっと心を強くして、彼を守れる人間にならなければいけません。私のように、君たちの関係を許してくれる人ばかりじゃないんです。辛い目に遭うこともあるでしょう」  お父さんの言葉に抱きしめていた腕の力を緩め、俺を解放して話を聞く穂高さん。そんな彼の手を、勇気付けるように握ってあげた。  ぎゅっと握った瞬間、彼のまぶたが少しだけ揺らめいて、泣き出すんじゃないかと思ったんたけど、俺の意志が伝わったのか両方の瞳に力のある輝きが、鮮やかに浮かび上がってきた。 「俺の心の弱さは、兄さんの友人に同じように指摘されました。それを克服すべく、これからの課題として頑張ろうと思――」 「思うだけなのですか?」  俺の繋いでる手に、一層力が込められる。 「いいえ。頑張ります! 千秋をこの手で守るために」  繋いでいる手を掲げて、しっかり見せつけると、お父さんはやれやれと一言、とても小さな声で呟いた。 「結局私はふたりの仲の良さを、わざわざ確認しに来たみたいですね。参りました」  青い瞳が見えなくなるくらい目を細めて、楽しそうに言ってくれたのだった。

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