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急転直下3

***  何が一体、どうなってしまったというのだろう――。  寝る準備をしていた俺に告げられたお風呂上りの穂高さんの言葉に、ぴきんと固まってしまった。  五日間、周防先生の言いつけどおり手を出さずにいた、模範的な病人だった穂高さん。  付き合う前に一度だけ彼を看病したときは我儘がさく裂して、そりゃあもう大変だった。そんな過去があったからこそ内心覚悟をしていたのに、五日間ずっと肩すかしを食らったんだ。  お互いマスクをしていたからキスができないのは当然だけど、抱きしめることはおろか、手を握ったりという軽い接触もしてこないくらい、大人しく生活していたお陰で平穏だった。 (――だけどちょっぴり寂しかったというのは、ここだけの話にしておいて) 「……穂高さん今、何て言いました?」  本日は六日目。普通の生活に戻ってよしと太鼓判を押されて、明日から仕事に復帰することになった穂高さんなのだが――。 「ん? 千秋が自分の手で、大事なところを解しているのを見たいと言ってみた」 「それって、つまり――」  あっけらかんという感じで告げられた言葉に、ぶわっと赤面するしかない。どうして、そんなものを強請るんだよ。今までの反動がそうさせているのか!? 「千秋のいろんな顔を今のうちに見ておかないと、間違いなく後悔すると思ってね。今回のことで、それが嫌というほど身に沁みたから」  両腕を組み、どこか遠くを見ながらカッコよく告げられても、俺に強請ったものは卑猥に満ち溢れているものだから、当然格好よくは見えない。 「何を言い出すかと思ったら、そんなの嫌に決まってるよ。恥ずかしいっ……」  ドライでイくことを覚えた身体は、前だけでイけなくなってしまった。だから自分で解す行為は、実は初めてじゃない。それを穂高さんの目の前でスルということは、その――。 「恥ずかしいのなら仕方がない。それなら譲歩して、俺のを咥えている千秋の動画を撮影しようか」 (――ちょっと、待ってよ穂高さん) 「く、咥えるくらいならいくらでもやりますけど、それを動画で撮影するなんて、悪趣味にも程があります」  無駄に両手を握りしめながら必死になって言い放った言葉だというのに、あからさまに顔を曇らせる。俺がいくらでもやると言ったのにだ、どうしてだよ。 「美味しそうに咥えている君の姿を、いつでも見たいと思っちゃダメなのかい?」  真顔でそれを言い切っちゃうなんて、ねぇ。俺に選択権を与えないようにするのが、手に取るように分かるじゃないか! 「千秋が悪趣味と言うなら、とことんまで追求しようか。ハメ撮りなんていうのはどうだろう?」  ああ、もう絶対に俺の反応を見て、ものすごく喜んでいるでしょ。ワクワクした表情が、ありありと物語っているもんね。 「……イヤですって」 「嫌って言われても困るな、俺なりに譲歩しているというのに。どれか選んでくれないと、気が済まない」  穂高さんってば困った顔をしているのに、しっかりと目が笑ってる。しかも何気に視線がイヤラしいこと、この上ない。 「どうして俺が困るものばかり、強請ってくるんですか穂高さんっ」 「何を言ってるんだ千秋。どれも君が、気持ちよくなるものばかりじゃないか。それに五日間、俺は真面目にしていただろう? それのご褒美があっても、いいと思うのだが」 「これがご褒美!?」  唖然としたまま固まっていると、着ているパジャマの裾をぐいぐい引っ張り、小首を傾げてニッコリと微笑む。 「俺はどれでもいいよ。これがいいなんていうワガママは、絶対に言わないから、ね――」  既にワガママを炸裂させているというのに、そんなことを微塵にも感じさせない穂高さんに対して、心底呆れ返るしかなかった。

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