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Final Stage 第2章:必要のない思い遣り3

*** 「困った……」  今の現状を表すなら、この一言に尽きるだろう。竜馬くんに告白されて、既に1ヶ月が過ぎようとしていた。  一応断ったハズなのに穂高さんを好きな俺を好きでいると宣言したせいで、竜馬くんと逢うたびに見せられる表情や態度から滲み出てくる気持ちが、びしばしと否応なしに伝わってきた。  友達としての関係――俺がこれを望んでも竜馬くんの気持ちを止めることはできないまま、ただただオロオロしていた。 「アキさん、恋人と離ればなれで辛くないの?」  彼の口から穂高さんのことを言われるたびに、本当に困ってしまった。気を遣いまくるのもあるけど、それ以上に俺の心の中に踏み込んでほしくないから。 「……やっ、これが日常になると当たり前になるし。そんなに辛くはないよ」  ――本当は寂しい。ずっと傍にいたいけど、それは穂高さんも同じなんだ。そう思うと我慢できる。 「そうやって強がって笑っている姿を傍で見ていて、俺は辛いけどね」 「強がってなんて――っ!?」  誰もいない深夜のコンビニ。温めている最中のおでんの中にある大根を、トングで引っ繰り返そうとしていた。  離れたところにいる竜馬くんが切ない表情を浮かべながら、カウンターで作業をしていた俺を見つめていた。その視線にあたふたして、慌てておいしそうな大根を見る。  静まり返る店内と妙な雰囲気を漂わせる竜馬くんに、いろんな意味でドキドキさせられてしまう。 「俺ならアキさんに、そんな顔を絶対にさせないのに。ずっと傍にいてあげるのにな」  その言葉のせいで、トングで掴んでいた大根を落した。ポチャンという水音が響く。  このままでいたら大根を握り潰しちゃいそうだったから慌てて放したものの、竜馬くんにかける言葉が見つからない――。  俺だって……俺だって本当は、穂高さんの傍にいたい。寂しくて涙する夜もあるけれど今の現状、それは無理な話なんだ。 「アキさんの傍にいて、寂しくないように抱きしめてあげるのにな」 「っ、竜馬くんに彼とのことを、とやかく言われたくないんだけど! 全然関係ないじゃないか」  ガシャンッ!!  放り投げるようにトングを元の位置に戻し、声を荒立ててしまった。 「……ゴメンなさい。今日のアキさん、変だったから。何かあったんだと思って」 「あ……、ちょっとイライラすることがあっただけ。ゴメンね、気を遣ってくれたのに、あたってしまって。ちょっと事務所で、頭を冷やしくてくる。お客さん来たら、呼んでね」  逃げるように店舗から事務所に身を翻し、音を立てて椅子に腰掛けた。 「何やってんだよ、もう……」  日々困っているのは、竜馬くんの対応だけじゃない。実は穂高さんの電話が、原因だったりする。夏休み前は週に1回か2回、かけてくれた電話が、今は毎日ある始末。  俺からかけても数時間後に再びかけてきたりして、話す話題がないというのに、とりとめのない話を穂高さんがしていた。  竜馬くんのことが片付けられてないからこそ、晴れやかな気持ちで話せない俺としては、とても気が重かった。そういうストレスが溜まって、態度に出ちゃったのかもな。 「困った……」  最近この言葉を呟きながら、ため息ばかりついてる。竜馬くんが俺を諦めてくれたら、悩みなんて解決するのに――。  にっちもさっちもいかない現状に、頭を抱えるしかなかった。

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