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Final Stage 第2章:必要のない思い遣り5

*** 「千秋、可愛かったな」  離れているからなのか、いつもよりも察しのよかった千秋。俺がしたかったことを瞬時に嗅ぎとり、急いで自宅に帰ってそれを実行してくれた。 『……っん、っふ……っう…』  スマホから聞こえてくる恥じらいを含んだ声色のせいで、俺自身が一気に張りつめてしまう。一緒にイキたいのに情けない。 『うぁ、ほら、か……っ、さんっ……ぁあ、気持ち……ぃ、いい?』 「いいよ、すごく。ぅっ、きっと千秋の中に入れた途端、んぅ…爆発してしまう…かもね」 『そんなのっ、やっ、も、もっと……俺を感じさせて、くれ、なきゃ……』  こんな風に言われたんじゃ、意地でもガマンするしかないじゃないか。嬉しいね、まったく。 「イヤだと言ってるが、俺を待たせたのは君だよ、千秋……いっ、今っ、何をしているんだい?」 『な、何って、あぁ…あっ、そんなの、言わせな、い、で』 「見えないから、聞いた、だけなのにイジワルだな。だけど、んっ、知ってるよ。どうなっているのか」  今すぐイキたい衝動に駆られるが、ここは必死にガマン――とにかく千秋を感じさせてあげなければ、ね。翻弄するツボは心得ている、とことん感じさせてあげるよ。  自身の弄っている手を緩め提出、千秋の淫らな姿を想像した。 「千秋は俺のと違って、蜜をこれでもかと溢れさせるからね。きっと手元が、すごくヌルヌルになっているだろう?」 『やっ、言わないで……』 「その音を聞かせろなんて、ワガママは言わない。その代わり感じやすい先端部分、俺がいつもするみたいに弄ってごらん。今の俺の言葉だけできっと、蜜がたくさん滴ってきただろ? 間違いなくすごく感じると思うんだ、気持ちいいハズだよ千秋」  耳元に囁くイメージでいつもより低音で告げると、震える声で無理だという一言が返ってきた。 「どうして無理なんだい? まだ余裕があるだろ?」 『そ、んなのっ、な、ないって。もぉ、あっ…あっ、穂高さ、ひぃっ、イく、イっちゃう……』  その声に導かれて緩めていた手に力を込め、ストロークを目一杯に上げる。 「俺も一緒にっ、くっ……うぅっ――」  声にならない声をあげ、瞬殺してしまった。姿が見えても見えなくても、千秋にイカされっぱなしだ。  またシようねと乱れた息をそのままに言ってあげたら、もうイヤだと言いつつも、どこか嬉しそうだった千秋。その雰囲気を感じとって笑いながら、おやすみで電話を切った。 「切らなかったら、またはじめそうな自分がいたもんな。参った」  千秋が絡むとどうも自制が利かない。もっと欲しくて、堪らなくなる――。 「とにかく千秋の言うことを聞いて、早く寝なければ。また失敗して、船長に叱られてしまうな」  下半身の処理をしてキレイに身支度を整え、ベッドに入り直した途端にスマホがけたたましい音を鳴らした。このサイレンの着信音は、義兄さんからだ。  俺の中ではいろんな意味で要注意人物なので、この着信音にしているのだが、夜中に聞くほど心臓によろしくない。 「……もしもし」 『もしも~し! 海の上で、しっかり働いてるかい?』  さっきまで千秋と一緒にオナってましたと、言えるワケがない。しかも義兄さんからの夜中の電話、イヤな予感が満載だ。  思わずベッドの上で背筋を伸ばしつつ、正座してしまった。 「いいや。今日は天気が悪くて漁は休みだったんだ。何か用? 義兄さんは元気そうで、何よりだね」  いつもよりテンションが高いのは、お酒が入っているに違いない。変に弄られる前に適当な理由をつけて、さっさと切ってしまおう。 『元気も元気、ばりばりだけど、アソコはさっぱりでねー。穂高も気をつけなよ、アハハ!』 「ああ、気をつける」  千秋が傍いたら、その心配は無用だと思うな――。 『気をつけるで思い出したけど、千秋から聞いた?』 「何をだい?」 『…………おいおい、1ヶ月以上経ってるのに話してないのかよ!?』  暫しの沈黙の後に、呆れた義兄さんの声が耳に響く。 「1ヶ月以上経ってるって、何の話なんだろうか? 義兄さん」 『あー……。それは、う~ん』 「濁さないでくれ! 千秋の話なんだろ? 一体、何があったんだ?」 『耳元で怒鳴るなって。聞こえてるから』  いても立ってもいられないとは、まさにこのことだろう。1ヶ月以上経っているという事情が知りたくて、つい怒鳴りつけてしまった。 『う~ん、1ヶ月経っても話をしていないってことは、処理できていないからか。しつこそうな面構えだったもんな』 「自問自答しないで、さっさと話をしてくれないかっ!」 『俺からはあまり、話したくない内容なんだって。千秋から直接、話を聞いてよ』 「俺は今、義兄さんに聞いているんだ。その後で千秋に聞くから」 『でもなぁ。巻き込まれたくないんだけど、俺としては』 「義兄さん――」  唸るように呼んでやると面倒くさいと一言呟き、その後深いため息をついた。 『千秋ってば不幸だわ。執念深くて、しつこい男共に好かれたもんだね。俺としては、全力で逃げちゃうレベルだ』 「しつこい男共? 俺以外の、誰のことを言ってるんだろうか?」 『千秋がバイト先のコンビニにいる、後輩だけど大学では同期ってヤツだよ。結構な色男だったね』  義兄さんの言葉で頭に浮かんだのは、宅呑みすべく千秋と並んで楽しそうに帰る、竜馬くんと呼ばれていた男の姿だった。 「……ソイツが千秋のことを好きって、どうして分かったんだい?」 『千秋が島からコッチに帰ってきた日。俺、アパートの前に駐車して待ち構えていたんだけど』 「そのことについては知ってる。千秋から聞いた」 『俺のことは喋ったのか。でさ、待っていたらすぐ傍にある電柱の前で、同じように待ってる色男がいたんだ。千秋の姿を見つけた途端に、喜び勇んで近づいたと思ったら、抱きしめ合ってさ』  抱きしめ合った、だと!? 俺の千秋と――。  スマホを握っていない拳が、わなわなと震えだす。二人の姿を想像するだけで、吐き気をもよおしそうだ。 『目の前で繰り広げられる展開の詳細が知りたくて、車の窓を開けてしっかりと会話を聞かせてもらったんだ。色男の抱擁に動揺して、離れろと千秋が言ってたよ。だけど、逢えて嬉しかったんだろうね。じーっと穴が開きそうな勢いで千秋を見つめてから、手を握りしめてさ』 「手を……握りしめて?」 『キレイだの可愛いなぁんて言葉を、嬉しそうに連呼してたよ。それを言われた千秋も、まんざらじゃない感じでねぇ、顔を真っ赤にして照れてやんの。それで場の雰囲気がアヤシゲなものになったときに、色男が恋人はいるのかって訊ねて――』 「…………」 『好きだって告白した後、キスしようとしてきた』 「なっ――!?」  俺の千秋に、キスするなんて――。 『安心しろ。可愛い弟の恋人に、手を出させるワケにはいかないだろ。車のライトを照らして、見事に邪魔してやったから』 「ありがと、義兄さん……。助かったよ」  体の力が一気に抜けていった。まるで爆発寸前まで膨らませた風船が、音を立てて萎んでいくように。 『俺が見た現状を、そのまま伝えたワケだけど。どう思った?』 「どう思ったって言われても。……ショックとしか」 『俺は、すぐ穂高に報告してやれって助言したんだけどねぇ。お前がそうやってショック受けるのを見越して、事後報告するって千秋が言ったんだよ。なのにまだ言ってないっていうのは、問題が解決できてないって証拠だろうな』  つまりあの男に迫られ続けているってことか。厄介だろうに……。相談してくれたらいいのに千秋。 「……電話するたびにどこか様子がおかしかったのは、そのせいだったのか。俺が寂しさのあまりに、千秋の話を聞いてやれなかったから。もっと突っ込んで、おかしい理由を訊ねてやればよかった……」 『俺は聞かれたことを、素直にゲロっただけだからね。間違っても怒って、飛び火してくれるなよ』 「そんなことをするワケがない。わざわざ丁寧に教えてくれた義兄さんに、罰当たりなことしない。千秋を助けてくれたり、いろいろ済まなかった。感謝する」  動揺しまくりの気持ちにツッコミを入れられる前に、さっさと電話を切った。スマホの画面をタップして、ふたりで並んで撮った写真を映し出してみる。 「千秋……。君の優しさは、時として俺の胸に突き刺さってしまうよ。隠さずに何でも言ってほしいのに」  結局、一睡もできないまま朝を向かえ、千秋に電話する時間をひたすら待ち続けたのだった。

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