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Final Stage 第3章:困難な日々4

***  穂高さんに電話を切られたあと、あのまま動けず、どうにもならないまま時間だけが経ってしまった。  穂高さんの生活のサイクルは夏休み一緒にいたため把握済みだったから、電話をかけていいタイミングも分かっていたのだけれど。 (またしても繋がらないとか、どうすればいいんだよ……)  いつも相手にばかり、かけさせていたツケだろうか。自分からかけた途端に、まったくもって繋がらない。しかも穂高さんからもかけてくれているのに、ゆっきーとシフトを変えたせいでタイミングが合わずに、ずっと出られないままだった。  ――まるで運命の神さまが、イタズラしているみたいだな。 「あれから3日しか経ってないのに、ずーっと話せないでいるね。声が聞きたいよ、穂高さん」  俺の大好きな心に染み入るあの声が、聞きたくて堪らない――  電話で話せないのならメールなり何なり、すればいいじゃないかと言われそうだけど、某アプリでメッセージのやり取りをやっていた。とりあえずまずはお互いに、謝るところから始まった。 『穂高さん、ゴメンなさい。俺が変な事を言ったせいで、怒らせてしまって』 『俺こそ済まなかったね。千秋が不安に駆られているのに慰めもせず、ちょっとした一言に反応して、カッとなってしまった。いつもなら受け流すことが出来るのに、全然そんな余裕がなくて。情けない』 『情けないのは、俺のほうです。竜馬くんに待ち伏せされたくらいで酷く動揺して、情けないにも程がある』 『それだけ怖い思いをしたんだ。予想出来なかった分だけ、衝撃は半端なかっただろう。その気持ちを分かってやれず、済まないと思ってる』  このやり取りも、スムーズにしたワケじゃない。既読するのも返事をするのも、お互い数時間後だったりした。いつもならどちらかが謝ったらそれで終いになって違う話題に移るハズなのに、何だか堂々巡りしそうな感じなんだ。  だからいち早く、直接話がしたいって思ってるのに――穂高さんの声を聞いて、不安を解消したいと願っている。未だに恐怖が続いているから、そう思ってしまうのは尚更なんだけど……。  あれからも、竜馬くんの待ち伏せは続いていた。 『押し付けられる想いは、迷惑にしかならないよ。それに今みたいに抱きついたりイヤなことをするようなら、俺にも考えがあるから』  そう言って次の日に実行した、シフトの変更。他にも何かするかもしれないという考えが、竜馬くんの中で浮かんだのだろうか。 (昨日の今日で、いきなり来なくなるとは思わなかったな――)  蒼い炎を交えた告白をされたせいで、次の日は仕事を終えてビクビクしながらコンビニの外に出たら、彼はいなかった。とにかく、どこから出てくるか分からないので気を抜かずに、駆け足で自宅に向かって走り抜ける。だけど……。 「ア~キさん、お疲れ様。走って帰ってくるなんて、そんなに俺に逢いたかった?」  そこは以前、竜馬くんに抱きしめられた場所――アパート前にある電柱に寄りかかりながら、ふわりと微笑んで俺を見つめる。その視線が舐めるような感じだったせいで、ぞくぞくっと悪寒がしてしまい、両手で体を抱きしめた。  ――穂高さん、穂高さん……。  息を飲んで心の中で必死に名前を呼んだけど、返ってくるハズもないのに呼ばずにはいられない。  ガチガチ震えまくる歯を噛み締め、一目散でその場を後にするしかなかった。  幸いなことに、竜馬くんは追っては来なかった。彼の出現に、怯えまくる俺を見るのが楽しいのかもしれない。無視はできるけど、無反応な態度をとることがどうしてもできなかったから。  その後は毎晩ではないけれど、コンビニの前で待ち伏せされたり、自宅前で待っていたり、帰る俺の後ろに距離を置いてあとをつけたりと、いろんな手を使われた。  穂高さんと電話で話ができない日も、同じように続いてしまい、精神的に追い詰められたある日、それは起こったのである。

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