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Final Stage 第4章:長い夜

 いつものように仕事を終えて、恐るおそる外に出る。  この日は肌寒くなくて、身を縮こませることなく歩き出せた。ちょっとだけ、あったかい感じの南風が吹いてるせいかな。凍てつくような北風なら、穂高さんのいる島の空気を思い出せるのに。  そんなことを考えつつ、通りすがりに横目で竜馬くんの姿を捜してみたら、店舗の入り口付近に座っていた。足元には缶ビールの空き缶が、数本転がっている状態だった。  その様子にドン引きして足早に走り去ろうとしたら、大きな声で話かけられる。 「お疲れ様ぁ、アキさん。待ってるのが寒くって、ひとりで宴会しちゃった」 (――こんなにあったかく感じるのに寒いなんて、ちょっとおかしいんじゃないのか!?)  陽気に笑って話しかけてきた竜馬くんに、眉をひそめて振り返ると、足元の空き缶を外にあるゴミ箱に手早く捨てて、「さてと」と一言呟きながら振り向く。  俺と目が合うと嬉しそうに微笑んで足を進めてきたので、逃げるように走ってやった。 「うわー呑んでるから追いかけるの、結構つら~……」  とか何とか言いながらもちゃっかり追いかけてくる彼に、嫌悪しか感じない。  ついてくるなと必死になって走っていたら、アパートの近くに辿り着く。内心安心したその途端だった。  ズシャッ!  明らかに転びましたという音が、耳に聞こえてしまった。 「いったぁ……」  酔っているのに、走ってついてくる竜馬くんが悪い。自業自得なんだけど――。  ため息をついて走っていた足を止め、踵を返して彼の元に渋々歩いて行った。 「大丈夫?」  言いながらぶっきらぼうな感じで手を差し出すと、転んだ状態を崩さずに、ふっと顔を背けた。 「……あまりにも惨めな姿に、仕方なく手を貸してくれる気になったの?」 「そんなこと……ないよ。だって友達だし。俺たち……」  竜馬くんがこんな風になる前は、仲のいい友達だった。彼の人柄を知っているから、手を貸さずにはいられない。 「っ……なんで……なんで友達以上に、なれないんだよっ!!」  俺に顔を背けたまま言い放った声が、住宅街の中に響いた。悲しみの中にやるせなさを含んだ声色だったけど、心の中には全く響かない。 「竜馬くん、お酒あんまり強くないのに、呑み過ぎたみたいだね」  言い放ったセリフをスルーして、違う言葉をかけてやる。あえてそれを言うことで、どんな言葉をかけられても俺には無駄だよって表したかったから。 「何度となく告白しても無視するアキさんから、そんな風に優しい言葉をかけられるなんて、ビックリするしかない」  俺の手を借りずに自力で立ち上がった竜馬くんは、顔を歪ませながら右手で膝頭の辺りを、バシバシ叩いて汚れを落とした。 「あのね、竜馬くん……」 「言いたいことは分かってるつもりだよ。いい加減に、諦めてくれって話でしょ?」  既に汚れが落ちているのにも関わらず、延々と叩き続ける姿を見ながら無言で頷いた。 「ここんトコ、ずっとアキさんの背中を追いかけてばかりいたよね。その間に何をやってるんだろうって、いろいろ考えちゃってさ。前なら顔を突き合わせながらお互い笑顔で、並んで歩いていたのにね」 「うん……」  パシパシパシ……腰を曲げて、ずっと膝頭を叩いてる姿が、どこか俺への気持ちを振り払っているように感じてしまった。 「追いかけても捕まえられないことは分かっていても、なかなか踏ん切りがつかなくて。どうしたらいい? ってゆっきーに愚痴っちゃった」  言いながらゆっくりと顔を上げ、涙目になりながら俺の顔をじっと見つめる竜馬くん。 「もう、そろそろ……。アキさんのことを諦めなきゃダメだよね。今までゴメン、井上さんにも迷惑いっぱい、かけちゃったよな」 「それは、そうだけど。あのさ、ここで待っててくれるかな? お水、持ってきてあげるから」  諦めるという言葉に内心ホッとしたけれど、竜馬くんは酔っている状態なんだ。水を飲んで少しでも冷静になった上で、このことをしっかりと確約してもらわねば――。  両手の拳を握りしめながら踵を返し、自宅アパートに向かって走り出した。

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