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Final Stage 第4章:長い夜5

「千秋――」 「ごめっ、穂高さんの気持ち、ちゃんと考えてなかったよね。本当にご――」 「参った……」  謝り倒そうとした俺の言葉に、低い声色で告げられた穂高さんの言葉が重なる。 「あれ?」  きょとんとした俺に背を向けて、着ていたTシャツをさっさと脱ぎ捨てる。鍛えられた上半身が目に映り、それだけで体温が上がってしまった。  はーっと深いため息をつき、右手で栗色の髪の毛をくちゃくちゃっと掻き上げながら、チラリと視線だけでこっちを向く。その目はいつもと違って、やるせなさを含んでいるものだった。 「ぁ、あのぅ?」 「千秋、強請ったからには、イヤだとか止めてなんていう言葉をなしにしてくれ」 「は?」 「一旦シャワーを浴びるなり、どうにかして時間をおいて、俺なりに頭を冷やそうと考えたんだよ。畑中君に感じさせられてイカされた君の姿を目の当たりにして尋常でいられる程、できた人間じゃないんでね」  ――それって、穂高さん…… 「俺の方が、千秋をもっと感じさせることができる。散々啼かせながら喘がせて、もっと気持ちよくさせる自信があるからこそ、直ぐにでも抱きたかった。だが君は傷つき、精神的に参ってると思ったから我慢したワケなのだが……」  ふっと視線を俺から外し、明後日を向いてしまう。その表情がをどうしても見たくて起き上がりながら、横顔を眺めてみた。 「さっきから物欲しそうな顔をしたり、俺を煽るような言葉を言ったり。参ったとしか言いようがない」 「……だって穂高さんが欲しいんだもん。しょうがないじゃないか」 「ほらまた煽る! いつものように優しくはできないから、覚悟してくれっ」  苛立ち任せに言い放つなり、ベッドの下に置いてあるプラスチックケースからバスタオルを引っ張り出して首にかける。その姿をぼんやり眺めていたら布団を剥ぎ取って、いきなり肩に担がれてしまった。 「うわぁっ!」  強引モードに入ってる穂高さんは、何を仕出かすかさっぱり分からない! 「暴れないで、じっとしていてくれ。首にかけたバスタオル敷くから、取ってくれないか?」 「わわっ!? ぁ、あぁ、あの……ハズカシイよ。それにアブナイ」  差し出した手に何とかバスタオルを握らせたけれど、今の状況はいろんな意味でヤバい。  バスタオルを敷こうと屈み込む穂高さんの背中に、すごい体勢のまま全裸でしがみ付く自分。ただ全裸ってだけじゃないんだ。アソコが起立してしまっているから、腰をちょっとだけ捻らせて、潰れない様に回避しているワケなんだけど。  そんな微妙な体勢の俺を担いだまま、平気でさくさくっと作業する穂高さんが、すごいというか何というか。がっちりとした体形だけどマッチョっていうんじゃないのに、肩に担いだ俺を物ともせずに颯爽と行動する彼のことが、もっともっと好きになっちゃうよ。  背中を掴んでいた片手の力を抜き、視界に入ってる腰から背中のラインを手のひらでそっと撫で上げてみた。 「うぅっ! コラ危ないよ千秋。いきなり何をするんだ」  躰をビクつかせた穂高さんが、ゆっくりと上半身を起こして、しっかりと俺を担ぎ直す。 「それは、こっちの台詞ですって。わざわざこんな格好で、バスタオルを敷かなくてもいいのに」 「わかってないね。この格好だから、いいんじゃないか」  言いながら直ぐ傍にあるお尻に、すりすりと頬ずりするとか―― 「もっ、何やって――っ、ぅわあぁ!?」  文句を言うのを与えない早さで、俺をベッドに投げ捨てた。 (舌を噛んだら、どうするんだよ……)  目を白黒させる俺を尻目に、さっさとジーパンと下着を脱ぎ捨て素早く跨る穂高さん。間近で俺を捉える目が、獰猛な肉食獣みたいだ。 「ひぃっ……ほだかさ――」  見つめる視線だけじゃない。重なった躰から伝わってくる重さや熱だけで、勝手に呼吸が乱れてしまう。 「俺を散々煽った罰、その身に受けてくれ千秋」  心に響く低い声で言い放って俺の頭を押さえ込むためなのか、額の上に大きな手のひらを使って鷲掴みした。間髪措かずに、顔を真横に傾けた穂高さんの顔が近づいてくる。 「んんっ! んぁっ……」  少しだけ開いていたくちびるを大きくこじ開けるように、ぎゅっとくちびるが押し付けられ、侵入してきた舌が簡単に俺の舌へと絡んできた。  ベッドに押さえつけられてる頭は、穂高さんの手のひらによって見事に動きを封じられているから避け様のない状態。開いているくちびるの端から、どちらのものとは分からない唾液が滴り、肌の上を滑っていった。 「ぅ、はあぁっ……ん、うっ……」  今までされたことのない激しいキスに、息ができなかった。まるで、全然知らない人にされているみたいな――。  薄っすらと目を開けて穂高さんの顔を見ようとしたら、キスを終えて首筋に頭を移動させたところだった。俺の額に手のひらを載せたまま、かぶりつく様に首筋に舌を這わせる。それはお腹の空いたライオンが少ししか肉がついてない骨に、かぶりついているみたいな感じと表現したらいいのかもしれない。  いつもなら顔色を窺いながら時々卑猥なセリフを言いつつ、余裕な表情を浮かべて俺を翻弄する穂高さんが、今は息を切らしながらむしゃぶり付いている様子に、不安になってしまった。  そうさせてしまった原因を、俺が作ってしまったのだから――。 「うぅっ……ほらかさんっ、ごめ――んぅっ!?」  普段とあまりに違う様子にきゅぅっと胸が痛くなり、思わず言葉が飛び出てしまったくちびるを唐突に塞がれた。まるで謝ってくれるなって言ってるみたいなキスに、涙が自然と零れていく。 「はぁはぁ……千秋っ、頼むから、そのままでいてくれ。何も考えずにっ……俺を、受け止めてほしいんだ。君が愛おしくて堪らなくて……止まらないっ」  額に載せられていた手で、そっと涙を拭ってくれる。だけど穂高さんのくちびるは俺のくちびるを塞いで、激しく舌を絡ませ続けた。それはたくさんの愛を、直に注ぎ込んでくれるみたいに―― 『激しさで愛を示すことができるなんて思っていないけど、そうやって求めずにはいられなくてね』  唐突に思い出した穂高さんの言葉。俺が怖がることを恐れていつも優しくしてくれたけど、もしかしたら、ずっとこうやって抱きたかったのかもしれないな。  それに何も考えず、穂高さんを受け止めるなんてできないよ。 「ぁあっ……ぅわぁ、そ、そこっ、はぁ、うぅっ」  大きな口を開けて、執拗になぞるように肌の上を滑るくちびるや舌が気持ちいいところばかりを確実に捉えるお陰で、ずっと躰をビクつかせっぱなしだった。それだけじゃなく空いてる両手は、突起した部分を痛いくらいに責めあげる。 「ひゃっ、はぁはぁ……あぁ、いっ! んんっ、くっ」  容赦なく責められ続けられたらすごく痛いハズなのに、それがいつしかゾクゾクとした快感へと塗り替えられていった。 「…っぅあっ、ぅあッ、あああっ……ほらかさんっ、らめ、もぅ俺――」  躰中に集められた熱が下半身に一気に溜まって、握られている竿が暴発しそうだったので、穂高さんの腕を掴んで動きを止めた。 「千秋?」  掴んだ腕と俺の顔を、不満げな表情の浮かべながら見つめる。 「……一緒にイキたい。ひとりは嫌なんだ、お願い」 「だが――」  いつもなら感じやすい俺のをヌイてから、ひとつになっていたので、相当我慢しているだろうと穂高さんなりに気を遣ってくれたんだよね。 「大好きな貴方と早くひとつになりたい。躰全部で感じたいから。愛されてることを……。だから」  恥ずかしいけどこんなことでもしないとやってくれないと考え、自分の太ももを両手で持ち上げて、思いきって足を広げてみた。 「早く来て。穂高さん」  頬に熱を感じながら必死にアピールしてみたら、闇色の瞳を細めて喉を鳴らした。 「……大事なココ、弄られてない?」  あらかじめ枕元に置いてあったローションに手を伸ばして中身を出すと、入り口にまんべんなく塗った。 「ンンっ、多分……っ、大丈夫だと」 「でも、記憶が曖昧だろう?」  言いながらゆっくりと挿れられる指。俺の中の無事を確認するみたいに、内壁を優しく擦った。 「うぁ、その指使い、微妙にっ、んっ……」  持ち上げてる腕につい力が入ってしまい、更にお尻を上げる格好になってしまった。穂高さんの指の腹がなぞる様に優しく動く度に、ゾワゾワした感じが躰を駆け巡り、腰がじんじんしてきて堪らなくなる。 「微妙って、気持ち悪いのかい?」 「ひっ、ああぁっ……違うぅん、っ!」 「痛い?」  心配そうに訊ねられた言葉に、ぶんぶんと首を横に振るしかできなかった。いつもとは違うそれに、喘ぎ声しか出そうにない。 「じゃあ――」  最初は怖々といった感じで挿れていた指。本数を増やすために挿れたときには、強引な所作でされてしまい、思わず躰を仰け反らせてしまったけれど。 「はぁん、っ……ぅあッ、ああ、くぅっ」  性急に押し広げていくそれは、口を大きく開かされてしまった呼吸を奪うキスと同じで、すごく求められる想いを感じることができたんだ。それが苦しいから、嫌だなんて言うことができない。むしろ悦びにつながってしまう。  その想いと快感が、見る間に高まっていく。 「もっ、我慢できなぃっ! ぃいっ……イくっ、うぁっ、はあっ、あ――」  自ら淫らに腰を動かしてぎゅっと目をつぶり、先にイってしまった。目をつぶった瞬間に見えた、不思議な真っ白い花火のようなもの。白い塊が一気に、目の前を爆発していった。 「……千秋、イったのかい?」  太ももを持っていた手を外し、脱力した状態で肩で息をするのがやっとだった。喘ぐように呼吸している俺に訊ねられた言葉を、不思議に思った。  何を言ってるんだろうかと重たい瞼をやっと開けながら、下半身を見てみたら――。 「ぁ、あれ? 何で?」  確かにイった感じはあったのにも関わらず、射精をしていない状態に唖然とするしかない。もしかして好きでもない竜馬くんにイカされたせいで、イケない躰になってしまったのか!? 「空イキとは違うか――」 「カライキ?」  俺の中から指を抜き去り、難しそうな顔して小首を傾げる。耳慣れない言葉にあたふたした。 「ん……。空イキっていうのは簡単に言うと脳の中でイってしまった感じと、表現すれば妥当だろうか。女の人がイクのと似ているかもね」  あ、だから目の前に白い花火みたいなものが見えたのかな――。 「……でも、それじゃないっていうのは?」  俺が体感したのが、空イキじゃないと言い切った穂高さん。何か、違いがあるのかな。 「それは脳の中でイったせいでその信号が躰に伝わり、性欲が見る間に無くなってしまうものなんだ。だけど千秋のは、立派に大きく反り返っているじゃないか」  ふふっと笑って、ちょんちょんとそれを突ついた。 「わっ! らめだよ、変に刺激を与えないで……」 「ね、まだ躰にもココにも快感が残ってる。多分ドライオーガズムだろう。すごいね、千秋」 (――すごいと言われても、イマイチすごさが分からないよ……) 「一緒にイキたいと強く思ってくれた結果、射精を止めるなんて荒業、俺には到底無理だ。しかもイク時の千秋の中がすごくヒクヒクしているのが、指全体に伝わってきてね。何もしていない俺自身が、イキそうになったんだよ」  言いながら俺の片脚を肩に乗せて、自身を挿れてくる。快感の残っている躰はちょっとした刺激にも敏感になっているのに、穂高さんの大きくなっているのを挿入されたら、もう…… 「ふぁ、んふっ……あんっ、あっあっ……ゆ、ゆっくりぃ、うっ!」 「分かってる。少しでも長く繋がっていたいからね。だが、そんなに力まれると……くっ、強引に挿れることになるが」 「うぁっ、そこ、いいッッ……ふぁっ、あッ」  強引な形でずるっと挿れられた瞬間、気持ちいい所に当たって腰が浮いてしまった。 「おいこら、千秋っ。そんなにキツく締め上げないでくれ。これじゃあ持たないよ」 「らって、ほらかさんのが感じるトコを擦るから、ぁっ……い、あっ、あン」 「参ったね、ホント。遅漏だった俺をこんなにしてくれるなんて。どうしてくれるんだい、ん?」  眉根を寄せて苦しげな表情を浮かべながら、更に腰を奥深くに沈める穂高さん。その体勢を維持したまま顔を寄せてきて、触れるだけのキスをしてくれた。 「ぅ、ち、遅漏って、なぁに?」  穂高さんと肌を重ねて、遅いなんて思ったことは今まで一度もなかった――むしろ、もうイっちゃったのって思ったこともあった。ナイショだけどね……。 「千秋と付き合う前は、そうだったっていうこと。誰と寝ていても相手を感じさせて、先にイカせるのに必死になっていて自分が感じる暇がなかったっていうのもある。途中で疲れてしまって萎えたりもしたな。大体一回こっきりで終わるのが、当たり前だったのに」  穂高さんは俺の最奥を貫いたまま微動だにせず、過去の話を語ってくれたのだけど真剣に話を聞きたいのに、躰の余裕が全くなく辛くなってしまい、思わず腰を動かしてしまった。 「ううっ! 千秋、いきなりっ……。もう少しだけ、君の中を感じていたいというのに。困ったコだな」 「んっ、は……ぁ、ほらかさんの、大きくなってる、ね……伝わってくる、っ……ビクビクッって」 「しょうがないだろ。千秋の中、すごくあたたかくて気持ちイイから。一回だけじゃ終われない。君が感じるだけで、俺も感じることができる……くぅっ、だからっ!」  いきなり俺の腰を両手で掴み、激しく上下されてしまって。 「ぃっ、いやぁっ! お、奥! そんなに奥突いたら……うあっ、ぁんっあ、ヘンになっちゃう」 「ヘンになってもいい、おいで千秋っ! 一緒に……イこうっ、ううっ……あぁあっ」 「いっ……ンぁ、はぅ、っう……」  さっき感じたモノとは質の違う快感が、ぶわっと下半身に集まってくる。  穂高さんが中でイったのを感じながら、声にならない声でイってしまった。躰の奥底から、根こそぎイってしまいましたという感じ――。  自分と穂高さんの躰に撒き散らすようにかけてしまった白濁の量が、すごいことになってるのが伝わってきた。 「あっ、ゴメンね。すぐに拭かなきゃ」  何だか小っ恥ずかしくて視線を彷徨わせながら、ベッドヘッドに置いてある箱ティッシュに手を伸ばしたら、腕を掴まれて動きを止められてしまった。 「たくさん感じた?」 「……見ての通りなんですけど」 「お礼に俺が、キレイに拭いてあげる」  笑いながら言って、ティッシュに腕を伸ばしてくれたのだけど――お礼をしなきゃならないのは俺だと思うのにな。  そんなことを思っていたら――。 「ひぁ…っ!?」  穂高さんが片腕をぐいっと伸ばした瞬間、挿れたままになってるモノが俺の気持ちイイとこを掠めるように突いたせいで、変な声が出てしまった。 「ああ、まだ感じ足りないようだね、千秋」  手早くティッシュを数枚掴んで、宣言通りキレイに拭いてくれた穂高さんの目が、正直怖いものと表現したらいいかも。 「え、えっと……穂高さん?」 「俺のを挿れたままの千秋にドライオーガズムを体験させてみたいのだが、どうだろうか?」  拒否する間もなくはじまってしまった行為に、俺自身なす術がなかったのだった。穂高さん、容赦無さすぎです。

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