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Final Stage 第6章:恋の炎は心の芯に灯し続ける5
穂高(と千秋)の苦難 その1
(――背中が熱い、燃えるような感じだ)
横たわる俺の目の前には寝室の壁があり、背後には当然千秋が寝ている。愛しい恋人の体温を感じてしまい、背中が熱くて堪らない。
どちらかが不健康なら諦めもつく。だが相思相愛の恋人同士が一緒にベッドインしているというのに、何もしないなんて気がおかしくなりそうだった。
せめて、キスくらいしてもいいじゃないかと言いたかったのをぐっと堪えたのは、千秋の顔がどこか寂しそうに見えたから。きっと心の中で、寸止めしてゴメンねって考えているのだろう。
俺が触れてしまったらタガが外れてしまうことが分かっているから、あえてキスも封印した。流されやすい自分を、きちんと止めるために。
(できすぎた恋人だよ、千秋は。俺には勿体ないくらいに、ね)
年末、実家に帰って島に就職する件について、ご両親に伝えたという話を電話で聞いた。正月休みは千秋と一緒に過ごそうと地元に帰る予定だったのに、天候不順が続いてフェリーが欠航しまくったんだ。
タイミングが合えば、一緒に顔を出せたのに――挨拶の言葉もしっかり考えて準備していたのに、出鼻を挫かれガッカリしてしまった。
『来年一緒に実家へ挨拶に行きましょう、穂高さん』
なぁんて千秋は明るく誘ってくれたのだが、今のヤル気に比例するくらいに挨拶する気が満々だった俺は、どうにも気持ちの整理がつかなくて、猛吹雪の中を無駄に走り、荒れ狂う海に向かってバカヤローと叫んでやった。
そんでもって現在進行形のこのやるせなさを、どう処理していいのやら。
「はあぁ~……」
何度目かのため息をついたときにベッドが軋んで、千秋がくっつくように寝返りを打った。うなじに鼻息がかかって、くすぐったいことこの上ない。それだけじゃなく――。
「……千秋のクララが、俺の尻に当たっているような?」
僅かな接触なので、正直なトコ曖昧だ。尻を後ろに突き出せば、どうなっているのか分かるのだが。
「分かったところで何もできないのに、確認せずにはいられないとか……」
くいっと腰を動かしかけて、ずずっと元に戻した。
(まるで俺の中に、千秋を挿れてほしいみたいな体勢じゃないか。卑猥だ)
だけどいつか――千秋がどうしても俺の中に挿れたいって言ったときは、迷うことなくいいよと頷ける覚悟はできている! そしていつか……。
『ねぇ、今日はどっちが挿れる?』
「じゃんけんで決めてもいいが、どうする?」
『またまたぁ、そんなこと言って。最近の穂高さん、やっと感じはじめてくれたもんね』
嬉しそうに笑いながら俺をベッドの上に押し倒し、堂々と跨る千秋。今夜も俺がネコなのか――。
「感じはじめたというか、少しは余裕が出たのかも」
千秋と繋がることができて嬉しいハズなのに、妙な圧迫感がどうにも苦しく、感じる余裕なんて皆無だった。それに愛撫されても、くすぐったさが先行して、吹き出してしまいそうになったり何より――。
「ぁ、うっ……ちあ、きっ……優しくぅ、ンンっ」
『痛い?』
感じてる声を出すのが、思っていた以上にハズカシイ。違和感を感じたのは、はじめの内だけだったから、今のこの感じをどう表現したら千秋は悦ぶだろうか。
「痛くは、ないが……んっ、ぅうっ……」
『感じてるでしょ、穂高さん。腰が微妙に動いてるよ』
「違っ、ぅわぁ、ちょっと待て、千秋っ。そんなに激しく……ぁああっ!」
ここで妄想がストップした。激しくなったからじゃない。背中にいた千秋が、ぎゅっと俺の躰に腕を回してきたから。
「……抱き~しめ~たぁい♪」
なぁんて某グループが歌っている曲を口ずさんでも、音痴な俺が歌ったところで、謎な歌に早変わりしてしまうが――。
くるりと向きを変えて、千秋を抱きしめ返してあげた。普段は離れているのに一晩こうして傍にいられるだけで、本当は満足しなければならないのにな。
「キスしちゃダメって言われてるけど、ちょっとくらいならいいだろう?」
自分なりに譲歩してキレイなカーブを描いてる頬に、くちびるを押し当ててみる。ここまで来るのに、疲れてしまったんだろう。ぐっすりと眠っていて、可愛らしい寝顔が見放題だ。
「ぅ、穂高さん……もっと……」
「も、もっとって何が?」
頬にもっと、キスしていいのだろうか? それともそれ以上のことを、して欲しいという『もっと』なのか――。
少しだけ開いている千秋のくちびるを見てるだけで、誘われてる感覚に陥ってしまい、またしてもめくるめく妄想がはじまってしまったのだった。
やっと寝られたのが空が白んでからだったのは、内緒にして欲しい。
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