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Final Stage 第6章:恋の炎は心の芯に灯し続ける9

「は?」  きょとんとした顔をしてまじまじと自分を見つめる表情を、視線の端に捉えた。  穂高さんの肩に置いていた両手をゆっくり移動させるなり首に腕を絡め、流し目らしきものをしてみる。俺を何とかしようと穂高さんがやっているのを、イヤというほど見ているからできていると思いたい。 「取引先の新人をこんな風に弄んだクセに、契約しないでポイする気ですか?」 「ぽ、ポイ? ――って放り出すつもりはないのだが」 「放り出さずに、ナニをするんでしょうか? そこのところを、優しく教えてほしいです」  絡めている腕に力を入れて、穂高さんの顔を引き寄せた。何がどうなってしまったんだろうという困惑の表情をキープしたままの様子は、眺めているだけでも結構面白い。 「ね、井上さん。ダメですかぁ?」  正直なところ、ものすごく恥ずかしかったりする。  いつもは穂高さんに誘われて流されるように行為が始まっちゃうから、自分からこんな風に誘うなんて、ありえない珍事がない限り夢にも思わなかった。  一生懸命に背伸びをして、誘っている俺を見下ろしていた穂高さんの闇色の瞳が、キラッと輝いたように見えたので、何だろうと思い瞬きをしたら、口元に艶っぽい笑みを浮かべる。 「ぅあ……」  思わず声に出てしまうくらい、ヤバイ笑み――この笑顔の意味は、俺の芝居に乗ってやるという証拠だろう。  あまりの雰囲気にビビってしまい、穂高さんに絡めていた腕を恐るおそる外して距離をとってみた。後ずさりしても背中にあるのは居間の壁があるだけで、これ以上の逃げ場はない。  背中と両手に壁の冷たさを感じたら、躰の両脇に穂高さんの腕が突き立てられてしまった。 「心外だなぁ、紺野くん自らHな顔して誘っておきながら、逃げてしまうなんて。どんな手を使って気持ちのいいコトをしてくれるのか、ワクワクしながら待っていたというのに」 「しっ、新人ですから……よく分からなくて。それでご教示くださればと」 「ご教示、ね。はたして、それでいいのかな? ご教授でなく――確かに仕事で使う分にはちょっと教えて下さいという意味のご教示が適切だろうが、この場合は俺に訊ねているワケだし、ご教授が適切だと思うのだが」  むぅ……。ご教授って確か長い間、専門的なことを教えるっていう意味だからビジネスで使うには適さないという知識が、頭の中に入っていた。だからこそご教示を使ったのに――。 「アレレレ!?(・_・;?」  長い間、専門的なことを教える=長い間、Hなコトを手とり足とり教える=Hの指導者・井上穂高教授! 「紺野くん、焦った顔してどうしたんだい? 扇情的な雰囲気を自ら作っていたのに、ね」  さ、さすがは、百戦錬磨の元ナンバーワンホスト。それを分かっていて噛みついた俺ってば、ただのバカ――。 「それはっ……そうやって誘ったら井上さんが喜ぶと思って、やってみたんですけど」 「勿論、嬉しかったよ。だが刺激がイマイチ足りなかったな。あともう一歩、踏み込んでほしかったのだが」  ちゅっとくちびるを食まれてしまい、言葉が出せない。困り果てる俺を無視して深く合わせると、穂高さんの舌が口内を掻きまわし始めた。 「ふぅっ……んっ…ぁっ」  角度を変えながら舌を絡められ、甘い声が出てしまう。背筋にぞくぞくした物を感じたとき、耳に衣擦れの様な物音が聞こえてきた。 「んぅ?」  不思議に思ってちょっとだけ目を開けたら、首元で穂高さんの両手が動いているのが見えた。  涼しい顔して散々俺を翻弄しながら、ちゃっかりネクタイを外せるとか、どうしてそんなに器用なんだよ。船長さんからは、不器用すぎて困ってるって話を聞いているのに。  シュッと勢いよく引きぬかれたネクタイが足元に落とされ、羽織っていた上着にも手をかけてそのまま脱がされてしまった。 「千秋も……積極的になって。もっと――俺を翻弄してくれないか」 「ほ、んろぅ?」 「ん……。だから、ね」  俺の右手首を掴み、穂高さんが履いてるスウェットパンツに導かれてしまった。躊躇する間もなく、中に手を突っ込まされてしまい――。 「あ……」 「触って欲しい。千秋のことがどんなに好きなのかを、コレで分からせたいから」  パンツの中に強引な形で入れられた手だったけど、上の方でぴたりと動きを止められている状態だった。なのに伝わってくるんだ。穂高さん自身の熱を――まだ触れていないのに、じわじわと伝わってくる。 「ね、焦らさないで早く触ってくれ」  俺の倍以上積極的な穂高さんはスラックスのベルトに手を伸ばし、耳元で息を乱しながら手早く外しにかかる。まだ触ってもいないのに、ハァハァしちゃって……。何をそんなに興奮しているんだろ?  そんなことを思いながらするするっと手を移動させて、穂高さん自身をやっと握り締めた。 「ん?」  握り慣れているからこそ分かる、いつもとの違い。ちょっと、これは――。  照れてる間に、さっさと脱がされてしまったスラックス。ボタンが中途半端に外されたワイシャツを着て、ボクサーブリーフ姿の俺を見下ろす、穂高さんの視線がチクチク刺さりまくりでかなりつらい。 「握り締めてお終いにするなんて、随分とイジワルだね千秋。何もしてくれないのかい?」 「そんな、こと……ない、ですけど……」  だって躊躇してしまう。握ってるコレに刺激を与えたら、更に大きくなる。こんなに大きくて硬いモノを自分の中に挿れられたりしたら、間違いなく気持ちよさで壊れてしまうよ。  穂高さんのを握った瞬間から、欲しくて堪らなくて。俺の大事なところがさっきからヒクついて、どうしようもない状態だ。恥ずかし過ぎて、こんなことを口に出せない――。 「……穂高さんのが、いつもよりも大きくって。ビックリしちゃった、から」  自分の躰の事情を誤魔化すべく、たどたどしく言ってみたら、ちょっとだけ瞳を大きく見開いてから、はーっと深いため息をつかれてしまった。 「そりゃ、大きくもなるだろう。昨日からずっと我慢しっぱなしな上に千秋のスーツ姿を見て、火をつけられたんだからね。今のその姿も、相当そそられている状態だよ」 「は? これがですか?」  顔を引きつらせて、自分の身なりを改めて確認してみる。  下側だけボタンの留められた状態で、だらしなく開きっぱなしのワイシャツとパンツ、それに靴下の3点セットなんですけど。  つぅか、穂高さんの萌えどころがさっぱり理解できない……。 「他の人が見たら、何てことのない姿に見えるだろうが。あぁ、靴下はちょっとだけいただけないか、うん」  プッと小さく吹き出して、スウェットパンツに突っ込んだままの俺の手を引き抜き屈み込むと、いそいそ靴下を脱がしてくれた。 「あの……」 「これでよし! へぇ、下からの眺めも結構いいものだな。チラリズム万歳」  いきなりチュッと太ももにキスを落として、滑るように下から上へと舌を這わせる。ゆっくりと味わうように、ギリギリのラインまで這わせられて、もう――。 「あっ、はぁ……穂高さ……」 「ワイシャツの隙間から覗くココ。千秋が感じる度にチラチラ見え隠れするのだが、上から見ても下から見ても、そしてこんな風に間近で見ても、堪らなくいい眺めだよ。こんなに盛り上げながら、大きなシミを作って」 「やっ、もぅ……言わないで。恥ずかしいから……」  下半身の事情をズバリと指摘され、狼狽えている内にワイシャツのボタンが全部外されて、あっさりと脱がされてしまった。 「さて時間もあまりないことだし、イジワルはこれくらいにして――」 「イジワルって、一体? うわあぁっ!」  質問を遮るように俺をさっさと横抱きして、寝室に連れて行ってくれる穂高さん。優しくベッドに下ろしてから、俺の膝を割って圧し掛かり奪う様なキスをする。  その躰にぎゅっと腕を回したとき、服を着ていることにやっと気づいた(いつもならさっさと脱ぐのに珍しい)  穂高さんのマネをして脱がそうと試みたんだけど、ボタンのないスウェットを脱がすには、首や袖をすぽんと抜かなければならないんだよな。  手をかけたまでは良かったのだけれど――ズリズリと情けなく、服本体をまくり上げただけで終わってしまった結果に、顔を引きつらせるしかない。

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