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急転直下11

*** 『何はともあれ、よろしくお願いします。穂高さん、頼りにしていますから』  元気よく告げた千秋が、唐突に電話を切った。仕事中にかけているから、慌てて切ったのかもしれないな。  ぼんやりとそんなことを考えてスマホをテーブルの上に置き、頬をばしばしと叩きながら自分なりに気合を入れてみた。  頼りにしていますから……なんて言われてしまったら、肩に力が入って変なことを口走る恐れがある。  だからこそ、気合を入れてみたのだが――前回、千秋を攫う形で家を出ている手前、正直お父さんには顔を合わせづらいのは確かだ。  大事な息子を奪った俺が船着場で待っていたら、間違いなく不機嫌になるであろう。そんな顔色を窺いながら話しかける第一声は、何がいいだろうか。 (考えたいのは山々だが、とりあえず顔を洗ってすぐに着替えなければ!)  島に来るフェリーの数は多くないため、到着時間が頭にしっかりと入っていた。慌てて現在の時刻を確認してみたら早々に準備しないと、お父さんに逢えなくなってしまう時刻だった。  ばばっと顔を洗い、手早く歯磨きして洗面所を出てから着替えるべく、洋服を入れてある押入れの前に赴いたのだが、思わず佇んでしまった。  勿論、ホストをしていたときの服なんて着ない。しかし、わざわざスーツを着て出迎えるのも堅苦しい感じがする。どこまできちんとすればいいのだろうか?  そんなことを考えてる余裕なんてないのに適当にできないのは、お父さんにこれ以上、嫌われないようにしなければならないから。分かっているのに決めきれないなんて……。  着ていく服装に、今までこんなに悩んだことがなかった。そんなことで慌てふためく自分を、バカだなぁともうひとりの自分が見ている。  千秋と付き合ったお蔭で、貴重な体験ができたといったところかもしれないな。

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