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残り火本編第一章 火種19
***
穂高さんは自宅に到着した途端、恭しく頭を下げられてしまった。
「いらっしゃいませ。当店をご利用いただき、誠にありがとうございます」
突然の豹変に、固まってしまるしかない。どうリアクションしていいのか、全然分からないよ。
「どうぞ、こちらの方へ」
玄関を開けて背中を押し、リビングへと誘ってくれる。
「失礼いたします。お召し物をお預かりします」
背後から手が伸びてきて、ブルゾンのファスナーを下ろそうとした。
「いえいえ、自分で脱ぎますので……」
ひえ~と思いながら急いでブルゾンを脱ぎ、伸ばされている手にやんわりと渡す。それを丁寧にハンガーにかけてから、穂高さんも上に着ているものを脱いだ。
ただ、羽織っていたものを脱いだだけ――
なのに彼からは、得も言われぬ雰囲気がダダ漏れしていて、勝手に頬が熱を持ってしまった。
「お待たせいたしました。リラクゼーションルームは、あちらになっております」
指し示された場所は、ただの寝室なのだが。――穂高さんの顔と寝室を見比べて、あたふたするしかない。
「あ、あのぅ……」
逃げられないようにするためなのか、しっかりと腕を掴み、強引な形で寝室に連れられ、ベッドに座らされた。
「緊張なさらずに、ベッドにうつ伏せになってください。さぁどうぞ」
「……変なコトとかしないでくださいね。痛いのも厳禁でお願いします」
「かしこまりました。お客様に、誠心誠意を尽くすサービスをモットーとしておりますので、ご安心ください。気持ちよくお過ごしいただけるよう、全力で頑張ります!」
またしても恭しく頭を下げられ、反論出来ないような笑みをしっかりと浮かべる。
渋い顔をしながら、仕方なく身体をうつ伏せにした。
「ふっ……」
(ん? 笑い声?)
訝しく思い顔だけで振り返ると、口元を押さえている穂高さん。一体何を考えて、嬉しそうな顔をしているんだか。
「変なこと……」
「失礼いたしました。早速はじめさせていただきます」
笑いを噛み殺した表情で、俺に颯爽と跨ったんだけど――
「ほっ、穂高さん……っ」
腰の部分に跨り、両肩を掴んで丁寧に揉み解される。揉むたびに穂高さんの下半身が、否応なしに身体に当たるのだけれど、それが既に形を変えていて、もう……
「なんだい?」
力を入れて揉むたびにベッドがギシギシと揺れて、それがまるで行為の最中のように、錯覚しそうになった。
「あの、もう結構ですので……」
揺れるたびに腰に擦りつけられる穂高さんのが、どんどん大きくなっていくのを感じてしまい、堪らなくなってくる。
「まだ揉みはじめたばかりだというのに、遠慮することはない。黙って揉まれて、疲れを癒すといい」
「やっ、だって! ……その、穂高さんのが当たるから落ち着かなくて、正直困ってます……」
「困らせるつもりはなかったんだが。千秋がベッドに横たわる姿を見ただけで、俺が勝手に興奮しただけだから」
困惑気味な声を出しながら、穂高さんの大きな手が肩から背中に手が添えられる。背筋をなぞるように、手のひらがゆっくりと下りていった。
「この背中のライン、すごくキレイだな」
なぞるように下されていく手は、いやらしいものじゃなく、しっかりと指圧をしてくれるものだった。
「ありがとう、ございます……」
そしてまた肩に戻るように、手のひらが移動していく。ゆっくりと丁寧に押してくれるお陰で、とても気持ちいい。
はじめに宣言したように、ちゃんとマッサージしてくれたので、身体がどんどん軽くなっていった。
昨日の疲れも手伝って、ついウトウトしかける。目を閉じては開けてを数回繰り返したとき、穂高さんの身体が下に移動して、俺の腰を揉みはじめた。
「千秋の腰、細い……。昨日この腰をくねらせて、俺の……」
ブツブツ何かを呟いたと思ったら、Tシャツの裾から素肌を触ってきて。
「ひぃっ!?」
直に触れられたところで、ダイレクトに感じてしまい、変な声が出てしまった。
「やめっ、それ何かが違うっ!」
肌を這うような指先が、やわやわと腰元を撫でていき、ゾクゾクが止まらない。思わず起き上がり体勢を変えて、穂高さんの顔を睨んでやった。
「全然、違うマッサージになってましたよ!」
「……せっかく揉んでいたのに、起きて顔を見せてしまったね」
揉んでない、揉んでない。性感マッサージになっていたって!
「千秋がその真っ赤な顔を、俺に見せなければ、何もせずに終わっていたのに」
「――はい?」
「君のその顔は、欲情を煽ってくれるんだ。止まらなくなる」
肩根を両手で掴むと、ベッドに押さえ込まれてしまった。こうされると、逃げようにも逃げられない。
抵抗空しく更にガッチリと押さえ込まれ、荒々しくくちびるが塞がれてしまった。
「んぅっ、……はぁあ!」
一瞬の気の緩み。――隙を見せた俺も悪いけど、襲ってくる穂高さんはもっと悪いっ!
文句を言いたいのに呼吸ごとそれも奪われ、喘ぐのが精一杯だった。
捲り上げられたTシャツの下にある肌を、穂高さんの両手が感じるように、すぅっとなぞっていく。それと一緒に押し付けられる下半身。
マッサージをしていたときよりも、強弱をつけてる感じ。身体が揺さぶられるたびに、ベッドがギシギシと寝室に響き渡った。
ただ擦りつけられているだけなのに、どんどん身体が熱くなっていく。もう無理だって思っていたのに、どうして――
「いやぁっ、も、らめらって、……言ってる、のにぃっ」
口が上手く回らない。喘いでいるせいなのか、それとも感じてしまって、頭が痺れているから?
「可愛いね、千秋。首筋まで真っ赤に染め上げて。……君の中にある性欲の花びらを、丁寧に一枚ずつ剥いであげる。丸裸にして俺の熱いのを、しっかりと注いであげるよ」
「やっ、もぅ無理ぃ、……つら、ぃ」
涙目になりながら、やっとの思いで告げたというのに、穂高さんは笑いを堪えた声で、そっと耳元に囁く。
「無理と言っているが、こんなになっているのはどうしてだい? イかない方が、逆に辛いんじゃないのか?」
喉の奥で笑って、耳の穴に舌を突っ込んでくる。
「ンンっ! やらぁっ、……あぁっ!」
水音とかゾクゾクしたものとかが、身体に一気に襲いかかってきて、どうしていいか分からない。
自分の声とは思えない、高くて甘い声を感じるたびにあげてしまう。こんな変な声、出したくないのに――
「イヤだって言ってる傍から、どんどん溢れてる。気持ちよくしてほしいクセに、ね」
いつの間にかズボンごと下着を剥ぎ取られ、あられもない姿にさせられていた。身体から発せられる熱が、その感覚さえ奪っていたことに、驚きを隠せなくて焦ってしまう。
心は焦っているのに、身体は快感をひたすら求めて、腰が勝手に動いてしまって――
穂高さんは全然動いてないのに、ギシギシと鳴るベッドの音に、羞恥心で頬の熱が更に上気した。
「もっと感じて啼いてごらん。俺を求めて千秋……」
「ああっ、……はっ、あぁっ、ほ……だかさ――」
穂高さんのと一緒に擦りあげられ、瞬く間にイかされてしまった俺。
その後、中に入ってきたモノに散々焦らされながらも、しっかりと感じさせられてしまい、意識がぶっ飛びそうになった時、穂高さんの言葉通りに、熱いモノが注がれたのであった。
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