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残り火本編第一章 火種23
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「……う?」
身体の違和感に、ふと目が覚めた。何故だか右腕が痺れている。
穂高さんに抱きついて寝たハズなのに、何故だか俺の腕の中に彼がいて、幸せそうな顔しながら、すやすやと寝息を立てている姿。
気づかれないよう右腕を引き抜いて、部屋にある時計を見ると午前五時半過ぎ。今から歩いて自宅に帰り、大学に行く準備をするには余裕過ぎる時間だ。
穂高さんは送ると言ったけれど、荷物になりたくないのでコッソリ抜け出そうとゆっくり起き上がり、そこら辺に散らばっている服を片手で何とか手繰り寄せ、ベッドに腰掛けて、いそいそと着始めた時だった。
腰にぎゅっとまとわりつく両腕――
「あ……」
驚いたら両腕に力を入れて、腰に顔を擦り付けてきた。俺の顔を見る、その目の鋭いこと……
「何してるんだ、千秋。まるでコッソリ帰るみたいな、様子に見えるんだが」
顔を引きつらせる俺と、少し怒った顔した穂高さん。
「えっと。……目が覚めたので自力で帰ろうかと。迷惑かけたくないので」
「俺が送ると言ったんだから、遠慮せずに甘えてくれ。恋人同士なんだから」
両腕に更に力を入れて、俺の身体を簡単に布団の中へと引き戻した。
「……言うことを聞かないなら、このままイチャイチャする。大人しくしてるなら、何もしない。どうする?」
このまま帰ったらきっと、機嫌を損ねちゃうだろうな。しかも何をされるか、分かったものじゃないし。
「分かりました。帰りませんから……」
渋々告げると安堵のため息をつき、抱き枕よろしく俺の身体をぎゅっと抱きしめた。
「一緒に暮らせば、こんな苦労せずに済むのにな」
唸るように言って、直ぐに寝息を立て始める。この発言が後に問題になるなんて、この時の俺は思いもしなかった。
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