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第三章 偽りだらけの恋愛7
辛い顔を見ていられなくなり、千秋の頬に添えている手で、顔に少しだけ角度をつけると、いつもとは違う角度で、くちびるを合わせた。強引に割り入った舌で、普段責めないような場所を、ぐちゅぐちゅとしつこく責め立てた。
「んぅっ、……はぁあっ……」
喘ぐような息遣いで、縋るように俺の身体に、腕をまわしてきた千秋。
「っ……!」
背中に触れた瞬間、何故か慌てて腕を外す。
信じられないといった表情でじっと顔を見上げられ、彼が不安に思っている理由が、全然理解出来なかった。だから――
「千秋だけだから。……君だけが好きなんだ」
自分の気持ちを込めて、耳元で告げてやる。全部伝わらないかもしれないが、少しでも千秋の不安が拭えるのなら、何度でも告げてやろうと思った。
「……俺も、……俺も穂高さんが好き。好きだからっ!」
涙をこれでもかと溢れさせながら言葉にすると、さっき俺がしたみたく、強くくちびるを合わせる。
千秋の告げてくれた愛の告白だけで、一気に心が満たされてしまい、無我夢中で彼のキスを追いかけながら、服を脱がしていった。
「愛してるよ、千秋――」
そう言って俺自身を突き立てたら、自ら激しく腰を振る。普段、そんなことをしないのに……
「ぁっ、……はっ、はあぁっ、……んっ……」
「千秋そんな、勢い任せにしないでくれ。せっかくひとつになったのに、これじゃあ持たないよ」
腰を掴んで動きを止めようとしたが、俺の事情をしっかり無視して、ぎゅぅっと締めあげるなんて。
「くっ!? おい、千秋」
「あぁっ、……うぁ、……ンンっ!」
「千秋――?」
熱に浮かされたような顔して、なおも必死に腰を動かそうとする。俺を見上げているのに、どこか遠くを見ているような視線。
「……千秋?」
もう一度名前を呼ぶと、ふわりと微笑んで両腕を俺の身体に伸ばすと、ぎゅっと抱きしめてきた。
「ほ、だかさんっ俺で、いっぱい感じて。……んっ、俺だけ、を見て……、いて……」
「見ているよ。君だけを愛しているから、千秋っ、好きだ」
「よか、……った――」
縋るように絡み付いていた腕が呆気なく外れて、シーツの上でバウンドする。微笑みを残したまま千秋が、意識を失ってしまったのだ。
「千秋……、千秋大丈夫かい?」
慌てて自身を抜いて抱き起こすと、そのままぐったりとしている千秋の頬を、軽く叩いてやる。
「……うん?」
ふっと目が覚めたけど、焦点が合ってない。体調が悪かったのだろうか――
「よかった。突然意識を失ったものだから、心配したんだ……」
「意識を……、失った?」
その言葉に瞼を伏せてからハッとした顔をし、俺の身体から逃げるように、両手を使って抜け出した。
何も言わずに背を向けてベッドに横になる千秋に寂しさを感じ、後ろからぎゅっと縋りついて、そっと顔を覗き込んだら、横目でちらっと俺を確認する。
「なに、考えているんだい? 怖い顔してる」
「怖い、顔?」
「ああ。……千秋らしくないよ」
――怒っているのとは、明らかに違う。まるで義兄さんが俺と喋っているときのような、何か悪巧みを考えている最中の顔に近い。
「……らしくない顔させてるの、誰だと思っているんですか」
俺がしていることと、さっき部屋にお客様がいたこと等々、たくさん文句を付けたいよな。
奥歯をぎゅっと噛みしめたら、絡んでいる腕を掴み、手荒く外して布団に入りながら、再び背中を向けられた。
「ごめん。……早くお金を稼いで、千秋のもとに戻ってくるから」
自分は無力で、謝るだけしか出来ない。――荒んでしまった君の心を、どうやったら穏やかに出来るのだろうか。こんなに傍にいるのに、遠くにいるみたいだ。
冷たい態度をし続ける千秋の両肩に手をかけて、うなじにくちびるを押し当ててみる。次の瞬間、身体をビクつかせた。
「んっ……」
「ね、千秋。こっち向いて」
いつもなら素直に俺の言うことを聞いてくれるのに、その様子すらない。
「千秋、……お願いだから……」
振り向いてくれるであろう、嫌がらせをして接触を試みる。耳の縁を舌先でなぞる様に、つつっと滑らせてみたら、舌を阻止すべく慌てて耳を隠し、渋々顔だけで振り向いた。
「な、に……?」
「俺は千秋が好きだよ。君だけを愛してる」
――どうしたら俺の気持ちが、君に伝わるのだろう? 何度言葉にして告げても、上手く伝わっていないのが、その顔を見ただけで分かってしまうんだ。
「…………」
「千秋は俺のこと、好き?」
俺の質問には答えてくれずに、視線だけをズラしてくれる。嫌いだと言ったときと、状況は変わっていないのか――
「千秋……」
今までの俺なら盛り上げるべく、適当な言葉を吐き続け、相手の心を翻弄し、その身体を弄んだ。
だけど千秋は違う。――千秋は俺自ら、心から好きになった人で、大切にしたいと思っている人だから。
千秋の顔から視線を下ろしたとき、目に飛び込んできたのは、自分がつけた咬み痕。肌を重ねる度に咬みついて、俺のものだと印を付けていたそれが、かなり薄くなっていた。
君の心の中にいる俺の印象は、この痕と同じくらいなのかもしれない。……そんなの、イヤに決まってる!
迷うことなく千秋の肩口に顔を寄せて、いつもより強く咬んだ。
「くっ、……痛っ……!?」
痛がる千秋の言葉を無視し、もっと咬み続けた。
「ほっ、穂高さんっ、何やって……。すっごく痛いってば!!」
俺の顔を無我夢中で叩き続け、離れろとアピールしたので、仕方なく口を外す。
咬み痕は血が滲むくらい、クッキリと痕が残っていた。
「……千秋も俺に、……痕、つけてくれ」
「へっ!?」
これと同じ痕を、千秋から付けられたいと思ったから強請ってみる。そんなことをしなくても、俺の心の中には、眩しいくらいの君がいるのだが――
言葉じゃなく現実に見える形を、彼から与えられたいと強く願ってしまった。
「千秋のだって印、つけて欲しい。目立つところでいいから」
俺だけじゃなく、他の人から見える場所に、千秋のものだという証が欲しい。――誰も手が出せないように。
「だって、……そんなことしたら、お客さんに何か突っ込まれたり、アレコレ言われちゃうんじゃないの?」
「それでもいいと思ってる。俺が真剣に恋愛してる相手は、……千秋だけ、だから」
「っ、……穂高さん」
顔だけ振り向いて俺を見てる千秋の瞳が、嬉しそうに揺らめいた。
「俺に、君のだっていう証をつけてくれ。他の人は俺の肌にはつけられない、千秋だけのものに。――心も身体も、全部千秋のものに」
言いながらゆっくりと抱き起こし、正面に向けさせ顔をつき合わせる。相変わらず、信じられないといった表情を浮かべる千秋の細い身体を、そっと抱きしめてみた。
「本当に、つけていい、の?」
震える声で告げてくれる言葉に、彼の後頭部に手を当てて、俺の首筋に導いてあげる。柔らかい千秋のくちびるを一瞬感じた後に、はぐっと咬みつかれた。
「んぅ、……はぁはぁ……」
息を乱しながら必死に咬んでるクセに、舌先を使って俺の肌を撫でていく。
「あぁっ、……ち、あき……っ」
そんな風に感じさせられたら、また押し倒したくなってしまうじゃないか。
首筋に感じる痛みと共に、千秋がしてくれる愛撫で、身体が否応なしに反応した。身体だけじゃなく、心も一緒に――
愛おしくてその身体をぎゅっと抱きしめたら、千秋も俺の身体を抱きしめてくれる。お陰で重なり合ってる互いの肌の熱が、一気に上昇したのが分かった。
「こ、れで、……穂高さんは、俺のだ……」
「ん……。嬉しいよ」
千秋に痕を付けられ、無性に嬉しくなってしまい、無意味に触れるだけのキスを、何度もしてしまった。
「っ、……あっ……」
時折、甘い声をあげる君が可愛くて仕方ない。――もっと感じさせてやりたくて、深いキスをすべく、くちびるをぎゅっと押しつけてみた。くちびるに感じる、千秋の湿った柔らかいくちびるに、胸が勝手に高鳴っていく。
そして俺の肌をいやらしく撫でてくれた舌に、自分の舌をにゅっと絡めた。
そんな俺の身体に腕を巻きつけて、肌を撫でる様に背中に触れる。背骨に沿って、指先で撫でたと思ったら次の瞬間、爪を立ててきた。
千秋の爪が、がりがりっと肌に食い込む感覚に顔を歪ませ、何とか痛みに耐えていると、絡めていた舌を外して顔を上げる。
「穂高さんもっと、……俺を感じさせて。離れてる間も、寂しくならないように」
真剣みを帯びた眼差しで俺を見ながら、大変なことをお願いしてくれるそれに、応えてあげたいと思った。
「まったく……。また気を失いたいのかい?」
再びベッドに千秋を組み敷き、右手でキレイな上半身を左手は勿論、千秋の大事な部分を感じるように、ゆっくりと撫でていく。
「……穂高さんのモノになりたいから。だからお願い、貴方で満たしてほしい」
「分かった、満たしてあげる。だが、気を失わないでくれ。分からなくなってしまったら、満たした事実が消えてしまうから――」
苦笑いしながら言うと、こくんと首を縦に振り、俺の首に華奢な腕をまわして引き寄せ、強請るようにキスをした。
積極的な千秋に、いつもより激しく応えてあげる。
「あぁ、あぁっ、……もっと、……して……」
普段言われない言葉だからこそ、ひどく感じてしまった。心ごと身体ごと求める彼に、全力で感じさせているのだが、まだ足りないと言ってくれる始末。
「ナニをして欲しいんだい? ん?」
そんなワガママが嬉しくてつい、イジワルを言ってしまった。
覗きこみながら言った俺の言葉に、切なげな瞳を揺らしながら、次のお強請りを告げてくれる。
「んっ、……穂高さんの、全部っ、が、……欲しいんだ、よ……」
「俺としては、すべてを捧げているつもりなのだが。それでも足りないって、どうすればいい?」
少しだけ千秋の腰を持ち上げ角度を付けると、感じる部分目がけて、ごしごしと擦りあげてみた。
「はあぁっ!? あっ、あぁ、……ふぁ、あっ」
腰をしならせながら感じまくってくれる千秋を、容赦なく責め続ける。
「あぁんっ、……穂高、さ、……やっ、ダ、メっ」
シーツをぎゅっと握りしめ首を横に振り、何かに堪える姿に胸がどんどん絞られる。
「ダメじゃない、求めたのは君だよ。俺の全部を受け止めてくれ……」
「あぁ、……も、俺、……ん、くっ……」
俺ので感じてくれる君に、全てを捧げてあげる。だから――
「遠慮せずに、イっていいよ。俺も一緒にイくから」
奥に向かって更に腰を打ちつけると、身体を何度か痙攣させて、先に千秋がイく。それを見てから、自分の痕を中につけるように擦りあげ、中に欲をぶちまけた。
脱力した俺の身体を愛おしそうに、ぎゅっと抱きしめてくれる千秋。幸せの余韻に、浸りきってしまう。
この幸せが、ずっと続くと思っていた。想いを告げて愛し合っていけば、どんなことでも容易に、乗り越えられると思ったのに――
運命の神さまは非情にも、俺たちの仲を割いてくれることをした。それは想像を超える悲しみを、俺たちに与える出来事だった。
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