「なんだよ、しけたツラして」 出勤して顔を合わせて真っ先にかける言葉がこれだ。それでも悠汰には救われてる。事情を知ってて気遣ってくれてるのがわかるから。 葵と二人、いつも引きこもって仕事ばかりしてる俺を連れ出してくれる。 「まあいつもの顔だよね。しけてはない」 「はるさん、今度いつ帰ってくるって？」 三号店を都心に出したはるは、自宅から二時間往復四時間かかる事で三号店の近くに部屋を借りた。 寝起きするだけの狭いアパートで暮らし、帰ってくるのは月に二、三度。 先月は一度だけ帰ってきたが、こっちの店舗にべったりで夜には挨拶のようなキスだけ残して帰っていった。 『軌道にのせるまで五年、我慢してほしい』 沢山話し合ってはるは夢に向かった。 応援してあげなきゃなのに、心が空っぽになっていく感覚は拭えない。 毎日の電話も日に日に短くなって今ではメールで済ませる日もある。最近はメールで済ませることが多くなってきた。それだけ忙しく疲れているんだろうって声を聞きたくても我慢する。 はるを信じてる。俺達の為、はるの夢の為に頑張っていることもわかってる。 俺も負けないように頑張ってはいるんだけど、寂しさには勝てない日もある。 そんな時は悠汰や葵、内田さんや去年からウチで働いてくれている赤井さんに随分と助けてもらってるけど、はるに勝るのもなんてないんだ。 はるが建てた家に俺一人住んで、期間限定だからって俺を言い聞かし夢向かった背中を掴んで離したくないと何度も思った。 それはある意味共倒れになってしまう。 そんなパートナーにはなりたくないと理性と戦い快く送り出した。 結局俺の性格は治ってないらしい。そばにいたいの一言さえ言えないんだから。 「さあ、いつだろうね。連絡ないからわからない」 資料に目を落として考えないフリを見せる。聞かれたってわからないことばかりなんだから。 何を食べて誰と何を話して暮らしているのかもわからない。 現にはるの住むアパートには一度だって行ってないんだから。