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繋がる空20
話そうとすれば息が上がる。何も言わなくてもあきは優しく背中を撫でてくれた。それがまた苦しくて込み上げる涙をぐっと堪えた。そんな泣いて甘える資格なんて俺にはない。
朝も昼も夜も。
一日中一緒に同じ空間で時間を共有してる。雇い主と従業員という立場ならまだマシだ。周りにほかのスタッフもいる。
だけどお昼休憩を一緒に取ろうとしたり、何かにつけて俺に触ろうとする。エスカレートしていく行為に追い詰められていったんだ。
最初は新卒じゃない彼はどこかの店でJr.スタイリストをしていただけあって手際が良かった。店長候補の佐々木君のサポートをしてくれて有望なスタッフだと思っていた。
俺の左手の指輪の話になった時だった。
ミーティング前の片付けをしていた時のこと。
打ち解けあってきたスタッフ達は楽しそうに会話が弾んでいた。
ひとりのスタッフが結婚したい相手がいるんだって話を始めた。
「彼女の親が今時凄く厳しくて門限9時だし、外泊はダメだし。だけど彼女と結婚したくて俺がしっかりしなきゃなんですよね」
彼はまだスタイリストではなく毎晩遅くまで残ってレッスンをする真面目な子。その彼に中傷したのは彼・・・北岡 航だった。
「一人前でもないのに人なんて養えるの?そんなことしてたら低収入のまま子供が出来て稼げる所に変わりたくなって仕事も楽しくなくなる。何の為に美容師になるんだって話だよ」
言ってることはわかる。理に適ってて今を疎かにするなって言いたいことも。
だけど結婚を反対されたように解釈したスタッフと言い争いになった。
止めに入った俺の薬指をみた北岡は不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「オーナーは結婚してるんですよね。指輪してるし。だけど奥さん来ないですよね、一度も見たことがないです。もしかして女避けですか?」
俺の話にすり替えた北岡は言ってみろよと言わんばかりに俺を見る。
「結婚してるよ。相手は地元で仕事してるからなかなか来れないんだよ」
あきが来れば甘えてしまう自分が嫌だった。軌道に乗せるまで地元に帰るまではここにはきて欲しくなかった。
・・・本当は違う。
同性婚をしていることをスタッフのみんなに知られたくなかった。
1号店、2号店のメンバーのように黙認して温かく見守ってくれる人ばかりじゃない。
胸を張って言えない関係を隠そうとしてあきを来ないように仕向けた。
あきを偏見の目で見られたくない。そんなことは思っていない。ただ、俺が同性婚をしていることを隠したかった。
あきを隠そうとした。
事実婚に後悔はしてない。あきと最期まで一緒にいたい。
だけど、仕事をする上で隠したい。そう思ったんだ。
「もしかして男だったりして?オーナーって中性的だし、綺麗だし?花巻さんとも噂ありましたよね?」
そう言われて言葉が出て来なかった。その通りで事実をいい当てられたから。
「それは、ないだろ。花巻さんは誰にでもベタベタしてくる人だし。それにオーナーを利用してたところもあるしね」
内情を知ってる佐々木君が代わりに答えてくれた。
それに同調する言葉がスルスルと出てきた。
「それはないかな。花巻さんとは仕事上だけお付き合いだよ。それにプライベートはお互い詮索しないほうがいい。みんな事情があるからね」
俺は躊躇いもなく結婚相手は女性であるようにほのめかした。
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