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第9話

「今から、黒川にお手本を見せてもらうから、お前らよく見るんだぞ」 集まった生徒たちにそう言って振り向いた体育教師に頷いて見せると、東吾はゴールから少し離れた地点に向かった。教師が笛を吹いて合図すると、その場で軽く屈伸し大きなストライドで走り出した。3、4歩でシュート地点に着くと、教師の投げた球をジャンプして空中で受け取り、そのままゴールに向かって豪快に投げ込んだ。走り始めから、ジャンプ、シュートまでの一連の動きは流れるように美しく、見ていた哲生たちは感嘆のため息をついた。東吾の、スポーツマンらしい均整の取れた身体が空中を舞う姿は絵のようで、女子たちが大騒ぎしていることを今更ながら理解した。 哲生たち生徒は、シュートの打ち方を教師や東吾に教えてもらいながら、何本か打って見た。ジャンプして空中で球を投げるハンドボール独特のフォームは思いのほか難しく、なかなか上手く打てない。考えるほど分からなくなって、球を抱えて思案していると、いつの間にか背後にいた東吾が哲生の耳元に囁いた。 「佐倉」 びっくりして振り返った哲生に微笑みかけながら、肩を抱いて言った。 「構えてみて」 言われるがままに構えると、袖の中に指を入れ、二の腕を持ち上げた。太ももの内側に手を這わすように触れ、足の位置を直した。 「この形、覚えておけよ」 他の生徒に呼ばれて東吾が去った後も、東吾に触れられたところが熱く火照ったままで、哲生は頭を抱えた。

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