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第14話

東吾は、哲生を優しく激しくベッドの中で攻め立てている間、ずっと「佐倉」と苗字で呼んでいた。声は甘いがよそよそしい響きに、東吾が踏み越えないようにしている一線を感じ、哲生はいつもほんの少し傷ついていた。男同士というただならぬ関係に、いずれ別れることが決まっているからこそ、あまり深くはまり込まないように、東吾はドライに割り切って考えているのだと哲生は思っていた。 だから哲生も「黒川」と呼ぶ。自分から告白しておきながら、一定の距離をとる東吾に理不尽なものを感じないではなかったが、好奇心も性欲もマックスに強い年頃だ。乱暴にすると壊れてしまいそうな女の子と違い、若い身体の果てしない欲望をぶつけ、貪欲に求め合っても平気そうな自分は都合のいい相手なのだろう。どんなに好きだと言われても、ベッドの中の睦言に意味はない。 県内トップの進学校である自分たちの高校の中でも、群を抜いて優秀な東吾は、将来エリートになることが決まっている。二人のこの関係が、東吾の未来に良い影響を与えるとは思えない。 自分を抱きしめたまま、眠ってしまった東吾の美しく整った顔を見ながら、哲生は自分も今だけ楽しければいい、と言い聞かせていた。 そんな哲生の想いを知ってか知らずか、唐突に東京行きを誘ってきた東吾に哲生は戸惑い、怒りすら湧いてきた。自ら距離を置いておきながら裏腹なことを言い、自分を振り回す東吾の真意を図りかねて、哲生は笑い飛ばしてしまったのだった。

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