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第17話

8年後 「山岸!もう会議が始まるぞ!」 「はい!いま行きます」 市の中心部にあるオフィスビルの一室で、ノートパソコンのコードを束ねながら青年が慌てた声を出した。 県内では中堅どころの設計事務所で、個人住宅や店舗のデザイン、設計を請け負っている。 「お前、結婚記念日って覚えてる?」 足早に会議室に向かいながら、山岸と呼んだ男が聞いた。 「覚えてますよ!夫婦としてのマナーですよ」 「やっぱそう?でもお前んとこはまだ2年経ってないじゃん。俺なんかもう10年よ?子供ももう二人いるのよ。今さらって思っちゃうよね」 「いやあ?」 山岸哲生は、苦笑いを浮かべて会議室のドアを開けた。 会議の議題は、市が建設を決定した地元出身作家の記念館設計コンペに参加するかどうかだった。 哲生は大学の建築科を卒業してこの設計事務所に就職し、2年の実務経験を積んだのち建築士の資格を取得した。資格を取ったとはいえまだまだ勉強中で、今回の記念館建設にぜひ参加してもっとたくさんの知識を吸収したかった。

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