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第22話

2人は、茉莉子のペースに合わせてゆっくりと仲を深めていった。お互いを尊重しあい、穏やかに愛し合い、大学卒業後別々の会社に入ったが別れることもなく、哲生が入社して2年の実務経験を積んだのち建築士の資格を取ったころ、茉莉子が自分の元に送られてきた友人の結婚式への招待状を見て、思わず「いいなあ」と呟いたのを聞いてプロポーズした。 茉莉子も哲生もひとりっ子だが、哲生はあっさりと山岸姓を名乗ることを了承した。 結婚後、2人は日々を淡々と送っていたが、哲生はその凪のような日常に特に不満もなく、茉莉子もそれなりに幸せだろうと疑うこともなかった。最近、家での茉莉子との会話が減ったのも、帰りが遅くなることが多いのも、仕事が忙しいためだと思うようにしていた。 午後の仕事を手早く片付けて哲生は市役所に行き、コンペの資料をもらって県庁へ回った。9階の建築課で用を済ますと、退社時間を過ぎていた。そのため、いつもは健康のため階段を降りるのだが、今日はエレベーターで降りる事にして、エレベーターホールに向かった。 ホールでエレベーターを待っていると、ざわざわと声がして、5、6人の集団が入ってきた。どうやら中央省庁から出張して来た官僚を送りに来たようだ。4、50代のオヤジ達の中に、パリッとしたスーツを着た若い官僚の姿があった。 哲生が何気なく彼らを見ていると、官僚がこちらを向いた。2人は同時に声を上げた。 「佐倉⁉︎」 「黒川⁉︎」

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