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第23話
2時間後、ようやく残業を終えた哲生が東吾との待ち合わせの居酒屋に着いた。東吾は先に着いていて、付き出しをアテにビールを飲んでいた。
8年経って、少年の甘さが消えた分精悍さが増して、立派な青年官僚になった東吾を、哲生は眩しく見つめた。
「佐倉、元気そうだな。仕事はなにしてる?建築士になったか?」
上着を脱ぎ、座敷に座ろうとしている哲生に、東吾は次々と尋ねた。
「うん、今は設計事務所で働いてる。営業も兼ねてるから忙しいんだ。黒川、お前はやっぱり官僚になったんだな」
「ああ、そうだな」
テーブルに哲生のビールのジョッキが届いたタイミングで、乾杯し再会を祝った。
ビールを飲みながら、哲生は東吾の目が自分の左手にはまった指輪を見ているのに気付いた。
「ああ、そうだ。俺、名前が変わったんだ」
哲生は懐から名刺入れを取り出すと、一枚引き抜いて東吾に渡した。
「婿養子だ。彼女がひとりっ子だからさ。お陰で大事にしてもらってる」
枝豆をつまみながら、哲生は何気ない口調で言った。
「結婚式はハワイで身内だけでやった」
山岸哲生と書かれた名刺を見ながら、東吾はショックを受けているようだったが、哲生は気付かないふりをして店員を呼び、おかわりに焼酎のお湯割りを頼んだ。
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