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第28話
3年後
東京の湾岸再開発地、緑がふんだんに植栽された公園のそばに建つタワーマンション中層階の一室で、東吾が自慢のカレーを煮込んでいた。
長い一人暮らしの間に、家事は一通り出来るようになっていたが、一番好きで得意なのは料理だ。中でもカレーは、数え切れないほどの専門店やチェーン店、ファミレス、カフェ、蕎麦屋、果ては行きつけの定食屋のまかないを頼み込んで食べさせてもらうほど好きで、作る方もネットや書籍のレシピを収集し、端から作ってみていた。
今日は特別な日なので、そのレシピの中でも一番美味しいと自信のある一品、牛すじの煮込みカレーを選んで前日から作っていた。ご飯はすでに炊き上がり、サラダもボウルに作ってラップをかけて冷蔵庫に入れてあった。
部屋はもともときれい好きでこまめに掃除をしていたが、ここ2、3日は特に念入りに磨いた。昨日は、バスタブにブラシをかけながら無意識に鼻歌を歌っていた。
もうすぐ30歳になろうかという中年男なのに、子供のように浮かれている自分が恥ずかしかった。
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