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第29話

大学進学を機に東京に出てきて借りた大学近くのアパートの部屋は、東吾にとって自分の寝床があるだけのただの容れ物だった。 大学で勉強や部活に打ち込んだり、自室を隅々まで掃除したり、凝った料理を作ったりしていたのは、好きだからやっているという以上に、余計なことを考えたくないというのが理由だった。 大学や仕事の同期、カレーの食べ歩きで知り合った人に親しくなった友人が何人かいたが、心の中にぽっかり空いた穴は結局誰にも、何にも埋められない。 繁華街のゲイが集まるバーで相手を探し、一夜限りの関係を持ったことも何度かあった。しかし、心から愛せる相手が簡単に見つかるわけはなかった。 東吾の腕の中で白いきれいな身体をくねらせて淫らに喘ぎ、長い睫毛を震わせて首にすがりついてすすり泣く、可愛くて可愛くて、愛しい人。高校のあの時、もっと真剣に、もっと必死に強引に腕の中に抱きしめて連れ去れば良かったのかといつも思う。 「何考えてるの?」 華奢な感じが哲生に似ていると思って誘った青年が、ベッドにうつ伏せになって東吾を見上げ、だるそうに聞く。今までに抱いた中では一番彼に似ていたが、それだけに余計辛くて悲しかった。 「寂しいんだね」 東吾の胸に頬を寄せて呟くこの彼を愛せたら、いや、ここにいるのが哲生だったら、そう思うと底のない悲しみの闇にいつまでも沈んでいきそうだった。

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