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第33話
ベッドの端に哲生を座らせ、東吾は湯を沸かすためにキッチンに立った。
2年前、偶然の出会いから思わず関係を持ってしまったが、哲生が既婚者ということもあり、2人はそれ以上進まなかった。
あの日以降、東吾は仕事や正月などで実家にたまに帰ってきたが、哲生と会うことはなく、噂を聞くこともなかった。
月日が経つうちに、哲生にはそろそろ子供もできた頃だろうかと思うのだが、事実を知るのが嫌で、誰にも聞かなかった。
1個しかない自分用のマグカップにコーヒーを入れ、哲生に渡した。哲生は両手で受け取ると、猫舌らしく、ふうふうと吹き少しだけ飲んだ。
哲生から話し出すまで、明日でも明後日でも待つつもりだったが、コーヒーを飲んで落ち着いたのか、哲生はポツポツと話し始めた。
「俺はほんっとうに最低なやつだ。」
「うん、どうした」
「彼女を、妻を傷つけた」
東吾は、マグカップを手にうなだれている哲生に向かい合う位置に、ライティングデスクの椅子を引き出してきて座り、哲生が話すのを見ていた。
「俺の嫁さん、茉莉子って言うんだけど、茉莉子のこと好きだったのは嘘じゃない。彼女と結婚したい、子供を持ちたい、幸せになりたいとほんとに思ってた」
ほう、と息をつくとまたコーヒーをひと口飲んだ。
少しぷっくりした、東吾の好きな可愛い唇が今は荒れてひび割れている。
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