33 / 39

第33話

ベッドの端に哲生を座らせ、東吾は湯を沸かすためにキッチンに立った。 2年前、偶然の出会いから思わず関係を持ってしまったが、哲生が既婚者ということもあり、2人はそれ以上進まなかった。 あの日以降、東吾は仕事や正月などで実家にたまに帰ってきたが、哲生と会うことはなく、噂を聞くこともなかった。 月日が経つうちに、哲生にはそろそろ子供もできた頃だろうかと思うのだが、事実を知るのが嫌で、誰にも聞かなかった。 1個しかない自分用のマグカップにコーヒーを入れ、哲生に渡した。哲生は両手で受け取ると、猫舌らしく、ふうふうと吹き少しだけ飲んだ。 哲生から話し出すまで、明日でも明後日でも待つつもりだったが、コーヒーを飲んで落ち着いたのか、哲生はポツポツと話し始めた。 「俺はほんっとうに最低なやつだ。」 「うん、どうした」 「彼女を、妻を傷つけた」 東吾は、マグカップを手にうなだれている哲生に向かい合う位置に、ライティングデスクの椅子を引き出してきて座り、哲生が話すのを見ていた。 「俺の嫁さん、茉莉子って言うんだけど、茉莉子のこと好きだったのは嘘じゃない。彼女と結婚したい、子供を持ちたい、幸せになりたいとほんとに思ってた」 ほう、と息をつくとまたコーヒーをひと口飲んだ。 少しぷっくりした、東吾の好きな可愛い唇が今は荒れてひび割れている。

ともだちにシェアしよう!