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第34話

「…彼女の方は、段々違和感を感じるようになっていたらしい。 俺は、いつもどこか違うところを見ていると。彼女が呼べば彼女を見るけど、いつもは彼女にピントが合っていない。一緒に居れば居るほど苦しくなると言ってた。 残業ばっかりでうちに帰るのが遅かったのも、家に帰って俺と居ても、かえって孤独を感じて悲しかったって」 哲生がマグカップを強く握った。指の関節が白くなるほどに。 「始めは黙って我慢してたみたいだけど、段々俺を責めるようになった。誰を見ているのか、何を考えているのか。プレゼントを贈っても、旅行に誘っても、裏読みして怒った。証拠もなく俺を責め、そんな自分を責めた。 あんなに賢くて、綺麗で、優しい子だったのに、茉莉子は俺のせいで壊れそうになっていた。俺が悪い。全部俺が悪いんだ。」 東吾は、哲生の手からマグカップを取り上げ、机の上に置いた。 「…ほんとは随分前に、結婚する前に気づいていたんだ。茉莉子はお前に似ている。俺が彼女に惹かれたのは、お前の面影を彼女に見たからだ」 「先月、離婚が成立した」 哲生は、うつむいて涙をこぼした。

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