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十八話『軌道修正された事態への還御』
「動くと危ないよ。」
鼻先で鋏を弄ぶ。
「傷害事件でも起こす気か。」
朝比奈は最初から暴力を振るわれることを前提に二人の行動を見ていたのだ。
性的なものが絡んだ時点で、動揺をし始め彼のペースは崩されたわけだが―― そこから彼の中で軌道修正された事態への還御、 当初予想していた暴力への切り替えかと危うい期待が滲む。
刃物を目の前にしても、性的嫌がらせよりはマシと安堵が見え隠れしている。
体を弄られるより最悪な状況へ導かれているとは考えないのか、 性に潔癖と噂される朝比奈からすれば、 これ以上悪い状況などないと考えているのか。
「怖い?」
繰り返し刃を開閉する音に朝比奈は桜色の唇を僅かに上げ嘲笑を浮かべた。
「俺に怖い物なんてない。」
「この状況でも?」
「――お前が傷害事件を起こせば俺としては好都合。」
想定外の方向に転がるまでは、適度に暴力を振るわせ普段から絡んでくる、 目障りな同級生を退学に 追い込もうと目論んでいたのだろう。
下種は下種でも、松尾も半田も綺麗な顔を殴り喜ぶ類の下種ではない。
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