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十九話『火をつけてしまった』
アンタは頭が良くても、下劣な人間の思考回路までは読めないね。
汚いものを見るのが嫌だから、敢て探ろうとはしない。
そりゃ誰だって、好んでゲロや害虫の死骸に並ぶ不快な物を見る様な真似はしないけどね、想像位は出来るのではないか。それとも、それすら拒絶するほど性の匂いが嫌なのか。
過去に何かあったのか勘ぐってしまう程だ。
「好都合?」
「害虫駆除の好機到来だ。」
動揺を無理やり抑えて見せた強気な顔で、 想定の範囲内と鋭い視線のまま口元で笑う。
挑発的ともいえる笑みだった。
だから、何故ここで挑発をするのだろう。
無自覚程たちの悪い物はないとはこのことだ。
松尾の顔に笑顔が広がる。
朝比奈には分からないだろうが、常日頃過ごす時間が多い相川はそれ が獲物を見つけた時の歓喜の表情と言う事を悟る。
ここで朝比奈が怯えを露わに懇願一つでもしたなら、松尾は完全に白け――まだ活路が見いだせたかもしれない。
火をつけてしまったのは、朝比奈だ。
火が付いたなら、泣こうが叫ぼうが松尾は止めないだろう。
弱弱しく懇願しても手遅れだ。
完全に逃げるチャンスを失ったと言っても良い。
「怖がってなくて良かったぁ。最初から朝比奈に酷い事なんて出来ねぇ って言ってるじゃん。お前性格はきついけど、見た目は良いからなぁ。こんな綺麗ぇな顔殴れねぇよ。」
頤を掴んで、キスをする仕草で朝比奈の顔を覗き込む。
「見た目が良ければ、男でも良いのか。」
嫌そうに、顔を背け吐き捨てた。
「男でも良いと思う程の見た目だからねぇ。」
「それが気に入らない相手でもか?」
「気に入ってますとも。」
監査委員に良く絡まれるのは、どうもその容姿が原因と考えたことも無 いらしい。
評議会で仁科を筆頭に、一之瀬とセットで厭らしい言葉を投げられる彼は、単純に「気に食わない相手への嫌がらせ」と考えたようだ。
他人に興味がないのか単純なのか判断に困る。
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