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二話『混ぜるな危険な劇物猛毒コンビ』
「お二人様到着ですかっと。ようこそ、監査室へ。」
相川は喉の奥で笑いながらも、両手を広げて歓迎の意を伝える。
何時もは物静かな二人だが、鉢合わせた途端煩くなるのはどういうことだ。
此方から声を掛けなければ、間違いなく廊下で大喧嘩していただろう。
環境美化委員の朝比奈 錦と風紀生活委員の一之瀬 彪彦は 互いを蛇蝎の如く嫌っているのは学院内でも有名で挨拶代わりに罵り合うような間柄なのだ。
(恐らく『こんにちは』と『死ね糞野郎』が同義なのだと相川は勝手に判断している)
そんな二人だからついに――誰が言いだしたかは不明だが――混ぜるな危険な『劇物猛毒コンビ』と言われるまでになった。
実に的確な表現だ。
ここに場をさらに混乱させる天才、保健委員の羽田が加われば、周囲の人間にとって精神衛生上よろしくない『劇物・猛毒・公害』の環境破壊トリオとなるが、今日は二人だけだ。
そう、二人だけ。
仲が悪い朝比奈と一之瀬が並んで立つことは珍しいので、相川は思わず口笛を吹いた。
先輩相手になんて態度だと言うものはいない。
「しかし先輩方のツーショットなんてレア過ぎ。ちょっと写真撮りたいです。」
生まれてきてよかったなぁ。
一人でも目を見張る程の美形が並んで二人登場とは。 絶景かな。
含み笑いをしたら朝比奈が不機嫌な表情でこちらを見つめてくる。
「相川、俺は遊びに来たわけではない。」
環境美化委員の仕事の一環か、一之瀬と違い学院指定の濃紺のジャージを着用している。
美人と言うのはジャージ姿でも洗練されて見えるから不思議なものだ。
ジャージのファスナーを下したらその下は、 規定の体操着かそれとも自前のシャツかとつい想像してしまう。
「山崎っ、先輩に挨拶位しろよ。」
思わず妄想の世界へ旅立ちそうになる理性を取り戻すため、同級生の山崎に話を振る。
お調子者で普段から煩いのに、先程から静かすぎて気味が悪い。
まさか気絶をしているのではと振り返れば、殴りたくなる様な間抜け面を晒していた。
「山崎?おーいっ。」
学年が違う為、生徒会執行部員や専門委員が出席する評議会が、朝比奈や一之瀬らと交流する唯一の場所となる。
監査委員の先輩である仁科について、評議会に出席する幸運に恵まれた一年は相川だけだ。
よって二人を拝む機会に恵まれず、後光が差しそうな美人に免疫の無い隣の同級生に至っては、ポカーンと呆けて二人に見惚れているばかりだ。
その気持ちは良く分かる。
目の前の二人は学院でもトップレベルの美貌の持ち主なのだ。
実物をこんなに近くで見る事など奇跡と言っても良い。
「呼ばれたから来たのに。何を呆けているんだ。」
奇妙な生き物でも見る瞳。
思わず両手を合わせ拝んでしまう周囲の気持ちなど、理解出るはずもない。
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