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四話『不快指数の上昇』
相川が所属する監査委員に与えられた一室は、平行に並べた会議用の折りたたみ式長机を島型形式で設置してあり、 中央の会議机から窓際に面しては、応接ソファとテーブルのセットが置いてある。
一之瀬は探る様にこちらを見てくるだけだが、 あれこれと機嫌取りをされ引き留められた朝比奈は、相川及び他の監査委員メンバーがソファで菓子を 食いダラダラと寛いでいる姿を見て、明らかに不機嫌な表情に変わる。
「やっぱ、ポテチはコンソメだよな」
「塩が正義だろ。」
松尾と半田が菓子を食べながら、朝比奈と一之瀬にジュースを差し出すが、 つれなく無視をされる。
何方か分からないが、舌打ちつきだ。
(舌打ちしたのは恐らく一之瀬だろうと相川は予想している)
「朝比奈はこういうの駄目なんじゃね?半田よー。水買ってこれば良かったのに」
「ミネラルウォーターって買う意味あんの?朝比奈はともかくなんで 一之瀬まで断んの?お前そこまで育ち良いの?あぁ、あれか。炭酸が飲めないとか?オレンジジュース飲む?」
「いらねぇよ。」と短く返事をした一之瀬は、 パイプ椅子を引き寄せまたがるように逆座りし背もたれに腕をおく。
些細な仕草でもやたら色っぽくて困る。
ティーバッグですが、ほうじ茶いれますよと好感度を上げる為の言葉を挟もうとした時、朝比奈の嫌悪の入り混じる表情とぶつかる。
流石に「まずいな」と感じた。
不機嫌の極み、留まる事を知らぬ不快指数の上昇。
一言で言えば、我慢の限界と言った所か。
「朝比奈先輩、宜しければ椅子に座って待たれては如何でしょうか…もう少し時間かかりそうだし…」
「もう少し時間がかかる…だと? 人を呼び出して20分待たせ、さらに引き留めてから15分23秒経過。つまり俺がここにきて35分23秒経過したと言うことだ。いい加減にしろよお前ら。 山崎といったか。今すぐ会計監査委員を探して来い。5分だけ待ってやる。」
半田や松尾に探しに行かせなかったのは、そのままサボると信用しなかったからだ。
後輩の山崎なら、先輩相手に下手な真似はしないだろうと踏んだのだろう。
指名された山崎はお預けを食らった犬のような顔になり「えええ?俺ですか?」と嘆く。
それはそうだろう。
パーティーが始まる寸前で退席をしろと言われたようなものだ。
「そんなぁ。」
「黙れ。俺が頼んでいるように見えるのか?命令だ、行け。」
最大の譲歩だ。
相川の知る朝比奈 錦なら5分遅刻したなら言い訳など聞かずとっくに帰っている筈だ。
それでも、苛立ちを抑え会計監査委員を待つ理由に思わず唇が歪む。
可愛い所があるものだ。
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