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五話『はぁ?この人たち何言ってるの、である。』

山崎は不満と未練を浮かべ監査室を出て行く。 適当に時間を潰して戻ってくるだろう。 「あーあ。可哀想に。山崎びびってたぞ?」 「――5分以内にここに会計監査委員を連れて戻らなければ俺は帰る。」 「山崎が5分以内に戻らなかったら?」 何となしに聞いた相川に白い目を向ける。 「用があるなら後日俺の所へ来いと伝えろ。」 一年の相川と同じく一年の山崎、二年の半田と松尾の四人は業務監査委員になる。 朝比奈が用があるのは会計監査委員の方だ。 否、違う。 厳密には会計監査委員が朝比奈に用があると言い呼び出したと言うのが正しい。 「それから一之瀬に用があったのなら別々に呼び出せ。 部屋も別に用意しろ。あとこの部屋は豚の飼育小屋か倉庫なのか?余りにも汚過ぎる。 菓子を食べる暇があるなら掃除をしろ。箒と塵取はないのか。」 眉間に皺を寄せたまま、朝比奈は部屋を見る。 炭酸飲料や菓子で散らかった応接机や 部屋の隅に乱雑に積まれた段ボール及び周囲に散る埃が気になるのだろう。 一之瀬が舌打ちした。 「うるせぇな。おい。それよか如何言うつもりだ。俺は うちのアホが一人連行されたと聞いて迎えに来たんだ。居ねぇじゃねぇか。 それに、こいつが用の有る会計監査委員も何時まで待っても帰っちゃこない。 ――どういうつもりだったんだ?別の目的でもあんのか? 松尾らが帰ってきたんだ。そろそろ教えてくれても良いだろ。」 本来ならこの部屋に入り真っ先に言うセリフだ。 話の食い違いに、「何を企んでいるのか」が気になり様子を窺っていたのだ。 探りを入れる為だろうが、不穏な「何か」を嗅ぎ取りながらも此の場に留まり続けたのは、ある種好奇心とも言える。 そして、好奇心は猫を殺す。 思わず口元が歪む。 多分一之瀬は危険と思いつつも逃げなかったことを後悔するだろう。 「言い方を変えようか。…手前ぇら、何をしたかったんだ?」 菓子を咀嚼しながら松尾が「あー、あれね。うん。そうだなー。」と 答えになっていない答えを返す。 「口に物を入れたまま喋るな見苦しい。喋るなら嚥下した後にしろ。」 咀嚼しながら喋る姿に、神経を逆撫でされたのか朝比奈の視線に殺意 レベルの鋭さが入り混じる。 「風紀生活委員の一年より、この部屋の衛生状態の方が気になる。ダニの産卵成育繁殖に適した環境だ。ダニだダニ。 深海の海底砂泥地に生息するダイオウグソクムシの様な見た目のあの有害生物どもだ。」 「おい、朝比奈。何てことを言うんだお前は。半田と松尾が照れてるぞ。それから、ダイオウグソクムシの見た目はダンゴムシ系だろうが。」 ダイオウグソクムシとか言われても相川はさっぱり分からない。 はぁ?この人たち何言ってるの、である。

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