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六話『実は仲良しではないのか』
「何故照れるんだ?言っておくが褒めていない、これは人間の活動する空間ではない。 ダニの産卵成育繁殖に適した環境、 つまりダニの育成室だ。人間が使用しているのに、ダニの為の部屋だなんて。 恥を知れ馬鹿どもと言いたい気分だ。 ここは絶対に5月からダニが増殖しているぞ。 個体により一度に2000個から産卵をするがお前達理解してるのか。 あの埃をただの汚らしい綿だとお前達馬鹿にしていないか。 一つ言うが馬鹿はお前達だ。 忌々しい事にあの埃はダニ達の楽園なのだ。卵から孵化し寿命が尽きるまで2、3ヵ月かかる。今は10月。 つまりは寿命が尽きた頃だ。 お前達が掃除を怠けた所為で、溜りに溜まった埃の中には死骸や糞が大量にあり、空中で舞うそれら汚物を この部屋にいる俺たちは吸い込んでいると言うことになる。 全く絶望的な気持ちになる。此処まで説明すれば、 掃除を怠るとどうなるか愚かで下劣な脳味噌を持つお前達でも理解できるだろうが。」
ビニール紐で束ねられた、ポルノ雑誌を見て朝比奈は吐き捨てる様に言った。
「――愚かな脳味噌の持ち主はお前だろうが。朝比奈。此奴らに整理整頓を心がける様に説得することが、 犬に英語を喋らせる事と同じ位に難しいと何故分からねぇんだ?」
「…何だと…つまり、こいつらはハウスダストに関して動物同様のレベルで無知無関心だと言うのか?」
「それ以前に一之瀬先輩の言う事否定してくださいよ。俺ら犬と同レベルって言われてるんですよ?」
ハウスダストについて話し出した朝比奈の美麗な立ち姿を眺めながら、この人オナニーしたことあるのかな。
なんて相川は隣の半田に耳打ちすると、何を想像したのか鼻の下を伸ばしやがった。
多分仰向けか、横向きかうつ伏せかでオナニーしながらアンアン喘いでいる姿で も想像したのだろう。
個人的には声は殺すタイプだと思いますが、先輩はどう思います?
半田に続けて言葉を向ければ、さらに顔が緩んだ。
やはり、エロい事を考えていたようだ。
「うるせぇよ。お前が掃除しろ。」
「何だか痒く感じる。」
「そこにあるタワシで擦っておけ。」
「タワシは体を擦る目的で作られてはいない。どう考えても痛いだろうが。」
普段は大人びているけど、一之瀬と話すと幼く感じる。
実は仲良しではないのかと勘ぐってしまう。
「二分経過か。あと三分だな。…痒く感じるのでもう帰りたい。」
「先輩、それ気の所為っすよ。」
「気の所為とは思えない。」
「痒ければ、俺が掻いてあげます。勿論タワシじゃなくて、俺が両手を使い全身をですね…優しく掻いてあげますから。」
「触ったら殺す」
そう言われれば、余計に触りたくなる。
困った人だ。
「煩ぇな。大人しく待てが出来ねぇなら帰れよ。会計監査委員への用なんてどうせ大した内容じゃねぇだろ。」
「煩い黙れ。大した用がないなら5分と待たず帰っているし、態々こんな汚い所に来るものか。」
確かに朝比奈自身と会計監査委員との接点は皆無に等しい。
予算編成は生徒会を通すので、直接かかわることはないのだ。
関わりがあるとすれば、生徒会会計と言うことになる。
そう、生徒会執行部会計を担当しているのは、彼の弟更紗だ。
隣に一之瀬が居るので、彼は詳細を口にはしなかったが――、何が言いたいかは良く分かる。
――焦らされて、苛立つ気持ちも良く分かる。
相川はにっこりと微笑み返した。
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