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十話『幼い子供をかどわかす様な』
――と、言う訳でうまく呼び出したのだが室内に入り、30分以上も経過すれば二人とも不信感丸出しの顔に変わる。
「会計監査委員はもう少ししたら来るからさ。機嫌直せって」
本日何度目かの感想を一つ。
美人さんと言うのは、 どんな表情をしても許される。
これが不細工なら間違いなく舌打ちしてる。
何睨んでんだよこらっってな感じで締め上げ、腹と頬に拳を打ち込んでいるだろう。
先輩方、その顔のお陰で俺に殴られなくて良かったね。
うんうんと頷きながら隣をみれば、二年生コンビが腰を上げて 朝比奈を囲う様にして肩を抱く。
「まぁ、こっち来いって。立ったままだと足痛ぇだろ?」
「ジュースが嫌なら珈琲入れてやるよ。座れよ。な?」
――お菓子食べる?朝比奈、何が食べたい?
チョコレート?クッキー?
スナック菓子は流石に薦めはしなかったが、菓子を餌に幼い子供をかどわかす様な猫なで声で機嫌取り。
さりげなく、肩から腕を撫でる手つきが嫌らしい。
「必至だな、おい」と頬杖をついた一之瀬が嘲笑する。
「気安く触るな。茶も菓子も不要だ。それ以前に呼び出ししておきながら待たせるとはどういうつもりだ。 簡潔に理由を言え。何様だお前たちは。」
「おー、噂通りガッチガチの堅物。一之瀬は大人しく待ってるのになぁ。」
「一之瀬と違い俺は約束を守れない人間が嫌いなだけだ。時間厳守と言う言葉を知らない人間は軽蔑する。 自己管理のできない人間など赤ん坊からやり直すべきだ。 これ以上待つ義理も無い。要件に関してだが後日そちら側が出直せば問題ない。5分経過だ。失礼する。」
「うわっ、こいつの髪すげぇサラサラしてる。」
朝比奈の顔が露骨に不快なものに変わる。
そりゃ、いきなり同級生が馴れ馴れしく肩を抱いてきたり、髪の毛を触ってきたら驚くよね。
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