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十一話『種も仕掛けもございません』
「何だお前気持ちが悪い。先程触るなと言ったぞ。同じことを二回も言わせるとは馬鹿なのか。 それから、俺の行く先を塞ぐな邪魔だ退けろ。」
嫌そうに髪に触れる半田の手を叩き落とす。
「仁科さんっていつ来るの?俺たちだけで始めようよ」
その言葉に流石の朝比奈も妙だと気が付いた様だ。
肩に置かれた手を払い二人から距離を置こうと身を引いたと同時に、糸が切れた人形のように膝から崩れ落ちる。
「はーい、まずは一人」
半田が朝比奈を支え、松尾が一之瀬へと向き直る。
「おい‥朝比奈っ」
椅子を蹴り上げ立ち上がった一之瀬がアクションを起こす前に、相川は彼に飛び掛り羽交い絞めにする。
役得だろうこれは。
髪の毛が鼻先に触れてくすぐったい。
腕の中で蠢く体に下半身が反応しそうになる。
待て落ち着け紳士になれ我が息子。
「――何をしたんだ。」
半田が朝比奈を横抱きにして、会議用の長机に寝かせる。
松尾が笑い「種も仕掛けもございません」などと手品師のような台詞付きで胡散臭い笑みを見せた。
「――如何いうつもりだ。」
「やだな、一之瀬先輩。もう分かるでしょ。こういうつもりです。」
一之瀬を抱きすくめる腕に力を籠める。
御免ね先輩。
目的は初めから「これ」だったんだ。
一之瀬の目がさらに見開かれたのは、松尾の手にあるもの――手品の仕掛けスタンガンの存在だ。
「あはっ、ばれちった。」
威嚇するように放電させてみせ、 語尾に音符か星マークでも付きそうな陽気さで笑う。
そして右手に握られたスタンガンを一之瀬に向けた。
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