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十三話『メインデイッシュ』

「しかもそれがプライベートじゃなくて、委員会で使う備品の買い出しだったらしくてさ。 学校側からすれば、よりにもよって被害者が朝比奈だろ?教師ら全員ムンクの叫び状態でさ。 生徒会巻きこんで大騒ぎになってたんだけど。 半田マジで知らねぇの?」 「いや、幾つか面白おかしく話されてるけどよぉ。良くできた作り話かと思ってた…。」 「他にも武勇伝色々あっけどね、こいつの場合盛り無しで全部実話だから。」 とんでもない人を、連れてきてしまった。 無知とは怖いものだと我ながら思うけれど、そう言う相手を泣かせるのって最高だよね。 「縛ってた方が良いですって。俺も一之瀬先輩縛ってますから。」 制服の上着を脱がせた一之瀬の両腕を曲げ、 左肘に右掌を右肘には左掌を重ねる様にして、後ろ手で左右の前腕を纏めてネクタイで縛りつけた。 両足は縛らない方が良いだろう。 「仁科さんが来るから大丈夫だろ。」 「つか、もう始めようぜ。仁科さん、いつ来るか分からねぇじゃん。大体やっちまえば、こいつが途中で起きても抵抗何て 碌にできねぇだろ。」 賛成だ。こちとら、一之瀬が起き無い所為で手持ち無沙汰だ。 せめて、触れる事は出来なくても目の保養くらいは欲しいものだ。 お前もこっちに来いと声を掛けられるが、相川は丁重にお断りする。 相川のメインディッシュは一之瀬だ。 旨そうだからと言い、つまみ食いをした所為でメインを食う前に満腹状態になってしまえば愚かの極みだ。 「無駄打ちしたらメインで使えなくなるかもしれないでしょう。」 何故なら、未経験だから。 性交に置ける自身の膨張率や持続性が分からない。 いざ本番と言うときに役に立たなかったら、 惨劇と言っても過言ではない。 「天下の朝比奈様に無駄打ちとか何様。」 声を立てて笑われるが、こちとら童貞だ。 せっかくのチャンスを失敗で終わらせたくないのだ。 「本命はこっちなんすよ。出来るだけたくさんこの人としたいんで、朝比奈 先輩とはしないっす。」 「何でも良いけど後で一之瀬もこっちに回せよ。」 それもお断りする。 二人の呼び出しを成功させた功労者なのでそれくらいは許されるはずだ。 「付き合いわりぃな~」 「俺一之瀬先輩しか抱かないので。」 朝比奈には触らないから、誰もこの人に触らないで欲しい。 基本的に相川は独占欲が強いのだ。 自分の物であるならば、手放す予定のゴミであっても誰かの物になることが許せない。 「何だよ、どのチンコが良いか朝比奈に教えてもらおうと思ったのに。」 「松尾ってば最低。」 朝比奈に対する卑猥な言葉を聞きながらも視線は一之瀬の寝顔に張り付いていた。 ソファに寝せて乱れた髪の毛を手で整える。 見れば見る程、好みだ。 可愛らしさなど無縁の、鋭い美貌は二人に共通しているが――容姿の質はまったく正反対だ。 何もかもを弾く排他的な性質と、何もかもを飲み込む混沌さ。 朝比奈は硬質で冷やかな美しさだが、一之瀬は熱く爛れた様な美しさだ。 朝比奈の肌は新雪の様な清らかさだが、一之瀬の肌は夜に浮かぶ月の様に青 白くどこか病的な危うさがある。 朝比奈の唇は桜色で花弁の様な初々しさがあるが、一之瀬の唇は赤く澄み切った果実を思わせる。 美の観点から言い、多くの人を惹きつけるのは清楚な朝比奈の容姿だろう。 一之瀬の纏う気だるげな空気は独特で癖がある。 どろりとした退廃的な色香は、食われてしまうのではないかと本能的な恐れさえ呼び起こす。 相川は、その異質さが堪らなく好きだった。 「――白い肌、黒檀の髪――あとは頬の血色が良ければ、白雪姫かな。」 柔らかな髪を指に絡ませればするりと解けていく。 細い頤から頬を撫で、そっと唇を重ねようとしたところでゴンッと耳障りな音がした。 会議机の上で両手足を押さえつけられた朝比奈がお目覚めと同時に、 覆い被さる松尾に頭突きを食らわせたのだ。

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