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十五話『危険すぎる程に鈍すぎる。』

学院内でも彼を知らぬ者はいない。 惜しみなく賛辞を呈しても、まだ足りない程の魅力。 きっと『朝比奈』という付加価値がなくても余り有る魅力の持ち主である彼ならば、皆の羨望の的であり続けるだろう。 そんな完璧すぎる少年ならば当然、親族だって目に入れても痛くない程に可愛い筈だ。 愛されて育ったことが容易に想像できる。 相川が親なら溺愛する故外には出さないし、誰も近寄らせない。 美しい宝石を大衆の目に触れさせれば、 身の程を知らぬ誰かが手を伸ばす可能性もある。 親の立場なら、そんな真似許すはずはない。 モンスターペアレントになる自信が有る。 彼は特別だ。 だからどう考えても、 人生における敗北や屈辱などとは無縁としか思えない。 辛酸など一度も舐めた事がないのだ。 ――勝者で有り続ける彼が、プライドをへし折られたらどんな顔をするのだろう。 別に彼に恨みはないが、一度泣かされろとどうしても考えてしまう。 美しい花は愛でるより毟り取り散らせたくなるのが相川と言う男だった。 「朝比奈は、乱暴にされたいらしい。」 そうそう。乱暴にして泣かせてほしい。 良いぞもっとやれ。 心の中で賛同する。 「俺はどっちかってーと、優しくしたい方なんだけどなぁー。」 両手で腰のラインを辿られた所で漸く「何かが可笑しい」と朝比奈も違和感を覚えた様だ。 これが箱入り御曹司の思考回路というわけか。 危険すぎる程に鈍すぎる。

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