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第3話*
「やべぇ! 巨大狼 の群に囲まれた!」
「へっ……?」
ゼクスはぴくりと耳を震わせた。聴覚に優れた耳には、数匹の狼のうなり声が聞こえていた。
周囲の山道には、薄暗い中にポツポツと金色の目が浮かんでいた。
ガルーは、山の中に生息している狼の一種だ。普通の狼より身体が二倍以上大きく、性格も凶暴である。一定の群で行動する狡猾さも併せ持ち、山道で囲まれたらまず生き残れないと言われていた。
「くそ! こんなところで……!」
御者が脇に置いてあった猟銃を掴んだ。
だが横からガルーに飛びかかられ、離れた地面に猟銃ごと吹っ飛ばされてしまう。
間髪入れず他のガルー達に群がられ、叫ぶ間もなく御者は喉笛を噛み千切られた。
「あっ……!」
ガルー達が肉に噛みつく音と、ガリガリと骨を噛み砕く音が聞こえる。
その生々しい音が敏感な鼓膜を震わせ、ゼクスは血を凍らせた。
荷台に繋がれたままの馬もガルー達に襲われ、あっという間に血生臭い餌と化してしまう。
「うわあぁ! 逃げろー!」
荷台に乗っていた仲間たちもわらわらと逃走し始める。
けれど逃げようとした傍から次々ガルー達に襲われ、瞬く間に骨と皮だけになってしまった。引き裂かれた犬の尻尾や、血塗れの耳などがゴミのように放置されているのを見て、目の奥がツンと熱くなった。血と土と獣の臭いが充満し、自慢の鼻も利かなくなってくる。
「あ……うわぁっ!」
背後からガルーに飛びかかられて、ゼクスはすんでのところで避けた。よろけた先に、御者が落とした猟銃があった。
ゼクスは無我夢中でそれを掴んだ。そして倒れざま、上から襲いかかってきたガルーに向かって一発ぶっ放した。
「ギャァァ!」
頭を撃ち抜かれたガルーは撃たれた反動で身体が吹っ飛び、遠くの地面に転がった。視界の隅で、頭から血液と脳髄を撒き散らしているのが見えた。
「……っ」
一瞬腹の底がぞくりとしたが、罪悪感を覚える前に、すぐさま次のガルーが襲ってきた。ゼクスはほとんど反射的に引き金を引いた。確実な手応えと共に、血と硝煙の臭いが鼻をついた。
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