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第10話

 純が立ち止まったのは、二階建てアパートの前だった。築何年経っているのか知らないが、古ぼけた雰囲気で家賃も安そうである。 「ここなんですけど……」  と、純がある一室の扉に手をかけた。 「遅ぇぞ、純! 一体何やってたんだ!」  純が扉を開けた途端、部屋の奥から怒号が飛んできた。赤ら顔の男が玄関までドタドタ走ってくる。 (ええー? これが純くんの父親?)  どこをどう見ても全然似ていない。見た目はもちろんだが、中身もだいぶギャップがあるように思えた。息子の方は礼儀正しく性格もよさそうなのに、どうして父親はこんな人間なのだろう。さすがの直人も呆然としてしまう。  純がおずおずと口を開いた。 「あの……お父さん、実は町でこの人たちに会って……」 「ンなことより、さっさとメシの支度をしろ! のんびり買い物しやがって、もたもたすんじゃねぇ!」 「ひっ……!」  身を強張らせ、肩をすくめる純。 「あのー、少々よろしいでしょうか?」  その時、拳を振り上げた父親との間に夢野博士が割って入った。 「あぁん? なんだ、てめえは」  博士の姿を見るなり、父親はいきなりガンをくれてきた。まるでどこぞのヤクザのような態度だ。  それだけで直人はちょっと委縮してしまったのだが、空気の読めない夢野博士は笑顔で父親に挨拶をした。 「純くんのお父さんですよね? 私は夢野正幸と申します。単刀直入に申しますが、今日はお願いがあって参りました」 「ああ?」 「お宅の息子さんを、私の助手にいただけないでしょうか」  いきなりそんなことを言って殴られはしないだろうか……と、直人はヒヤヒヤしながら成り行きを見守った。  博士は更に言った。 「あ、もちろん養育費なども含めて全て私が面倒を見させていただきます。お父さんにも謝礼としていくらかお渡ししますので」 「謝礼?」  お金に関する単語が飛び出した途端、父親の耳がピクリと動いた。

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