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第11話

「だったら、早いとこ出すもん出せや」  と、博士に手を突き出してくる。なんとも現金な父親だ。  こんなヤツにお金渡すことないよ……と思ったけれど、夢野博士は直人に持たせていた鞄を開け、底の方から厚手の茶封筒を取り出した。「銀行のセキュリティなんて信用できない」と言って、博士はいつもいざという時に困らないくらいの現金を持ち歩いているのだ。 「では、こちらをお納めください」  夢野博士が父親に封筒を差し出す。  父親はそれを受け取って中身を確認していたが、 「これじゃ全然足りねぇな」  と言って更なる額を要求してきた。 (おいおい……どんだけ欲張りなんだよ、この人……)  茶封筒の厚さから察するに、数百万円は入っているはずなのだが。  博士も首をかしげ、父親を見た。 「あれ、その額では駄目ですか?」 「当たり前だろ。大事な一人息子をくれてやるんだからよ。こいつは頭金としていただくとして、これからは少なくとも毎月百万は払ってもらうぜ」  父親は、『大事な』の部分をやたらと強調して言った。どうやらこの父親、純をネタに博士から搾れるだけ搾り取ろうと考えているようだ。 「…………」  そっと純の様子を窺ったら、彼は視線を落としてひたすら俯いていた。髪に隠れて表情はよく見えなかったが、拳を硬く握り締めたまま無言を貫いていた。 (可哀想に……)  息子は父親のことを思って側に居続けたというのに、父親は息子のことを金ヅルとしか思っていないのか……。  そう考えたら、なんだか胸が痛くなってきた。

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