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第4話
理事長は部屋を右往左往していて、神霜先生が必死で宥めていた。ドアを開けたことさえ気づいていないくらいおどおどしてる。
「あー、もう、譲くんたちはすぐ来ますってば」
「だが遅い、沙恵に捕まったのかもしれない...」
「心配しすぎです」
「神霜先生は心配ではないのか!」
「いえ心配ですけどぉ......朔の事だし、大丈夫だと思うんだけどなー...」
終わらない会話に、運転手さんが「あの...もう来てます」と終止符を打った。いまさらだけど、この人誰だろうか。
「桜花先生、お久しぶりです」
理事長が気づき朔に近寄る。朔と神霜先生は同級生で、理事長の教え子だと言っていた。会うのは何年ぶりなんだろう。
「朔くん...随分、しっかりした顔立ちになって...」
「先生こそお変わりなく」
話してる内容的に、きっと高校を卒業してから一度もないんだと思う。
「結花子くんの件は本当に残念だった......葬式にも出れなくて悪かったね」
母さんはおれが小さい頃亡くなった。死因は事故死だとされている。
「いえ、お気づかいなく」
「そうか...それじゃあ、本題に入らせてもらうとするよ」
理事長がおれの方を見て頷き頭をポンポンと二度ほど撫でた。これの意味は何?
「どうする?譲くんは向こうで待っていてもらうかい?」
ここまで来て除け者にされてたまるものかと首を振り移動することを拒否する。朔はなにも話してくれない、どうして榊田から連れ出したのかも、どうして学校に来たのかも。なにも、教えてくれない。
「朔、譲くんめっちゃ不安がってるよ?いいのー、そんな状態でほっといて」
「......」
顔に出てたらしく朔がちら、と見てきた。さっきの発言で余程苛立っているのか、無表情で少し怖い。
「...説教は家に帰ってからでいいか」
かなり不穏なことが聞こえたけど気のせいにしておく。朔は無表情を崩し再び理事長と向き合った。
「説明は後にして、まず先生の集めた情報を」
朔は理事長に言ったのに差し出したのは神霜先生。先生も一枚かんでいるらしい。
「譲くん、譲くん」
ふたりが情報交換をしてる間は入っていくことが出来なくて、神霜先生に呼ばれるまま近寄る。
「実は、譲くんが学校に来ないって連絡したの俺なんだ」
目を見開いた。犯人は神霜先生だったのか。あ、でもそれなら納得いく。元々仲が良かったのだから話して当たり前だ。
「どうしても心配でね?電話にも出ないし、家に行ってもだめだったし。今日来るって連絡来た時に思わず朔にも話しちゃったんだ。まぁその時に「攫ってこい!」なんて言ったけどまさか.........実行するとは」
確かに来るって行ったけどさーと苦笑する神霜先生。横目で朔を見る目は信頼しきっていて、なぜかいいなぁと思ってしまった。
先生はぱっと顔を戻しにこぉと不気味に笑う。
「大丈夫!俺らの間柄に恋愛感情はないからね!嫉妬とかはしちゃダメだよ!」
「いや...しませんけど」
なんで恋愛感情あるとか嫉妬するとか思ったんだこの人。嫉妬なんて...し、ない。
「でもさ...譲くん、王子様が直々にお迎えに上がられたのに...嬉しくなさそうだよね」
「.........」
急に先生は真面目な顔になっておれを追い詰めてきた。
「朔もさっき説教って言ってたし、怒らせるようなこと言ったんだよね?たとえば...榊田に帰る、とか」
「...」
「榊田の方が心地いいとか」
「...」
「朔と離れられるとか」
「......」
「このあたりかな?」
盗聴器でも、付けられていたのかもしれない。もしくはエレベーターの監視カメラ。先生はニヤニヤしていて不気味。
「榊田ってさぁ...ほんと、なんでもやるんだね?.........大丈夫だよ、譲くん。朔は譲くんを嫌ったりしないよ?」
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