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第5話
ぐっと言葉につまり視線を逸らす。
そんなのわからないじゃないか。どうして言い切れるんだよ、嫌わないって。
「まぁまぁ......あとは自分で話そうね?」
朔の方を見ると、話は終わってるみたいだった。目を合わせるのが嫌で俯くのに、朔は気にしないとばかりに頭に手を置いてきた。
「帰りくない理由云々は置いといて、説明する」
まだちょっと怒ってる?と思うほど口調が硬い。
「裏で色々調べてた。
調べていたのは、榊田のことだ。榊田は色んな事業に手を出してる分、不祥事も多いはずだ。だが、榊田は気味の悪いことに一切ニュースにも新聞にも出てこない。つまり、裏を掛けばいくらで出てくるわけだ」
「いつの、間に」
「調べた内容は置いといて、榊田はかなりの量の不祥事を押さえ込んできていた。...訴えれるくらいには」
はっと朔の顔を見た。訴えれる、くらいには?なにをする気なの。
「訴える、気なの」
「譲の傷だって判断材料だ」
「あ......」
首の傷を服の上から抑える。誰が見てもこれは絞められたあとに見えるんだろう。紐のあとも...付いてたと、思うし。
「訴えるまではいかなくても脅すことはできる。あの人たちと同じやり口なのは気に入らないけどな」
「こ、父さんは、大丈夫なの。自分の、お父さんとお母さんでしょ」
「それを言ったらあっちもだろう。自分の息子を死人扱いしやがって」
しやがって、って...。
「そこで私が活躍するのよー」
後から凭れかかられ体が傾いた。運転手さんだ。
「私の名前は官乃木 奈緒。奈緒ちゃんって呼んでいいからね!」
「な、奈緒さん...でお願いします」
「それでも可愛いから許すわ。私は結花子、譲くんのお母さんのお姉ちゃんよ。つまり叔母ね」
叔母さんって言ったら怒られるだろうか、いや怒るに違いない。奈緒ちゃんは無理でも奈緒さんならなんとか。
「私、法律事務所を持ってるの。それに、弁護士資格も。もう分かるわね?」
何回か頷く。この人がいれば榊田と対峙できる。事務所を立ち上げるくらいだ、きっと強い。
でも本当に大丈夫なの?榊田はひと1人殺してそうだ。
そんな気持ちを汲み取ったのか奈緒さんは、にぃぃっっ...こり笑った。
「大丈夫よ?ね?」
肩に置かれる手が、非常に怖かった。
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