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第6話
榊田と直接対談するのは理事長と奈緒さんだけらしいから、おれと朔は帰らされるらしい。
「神霜先生...あの、戻ってくるかも、なので...その時はよろしくお願いします」
連れ戻されるか、悲しいことに榊田に返される場合もあるから、先生に頭を下げた。
「了解、でも戻ろうとしても...後ろの鬼さんが軟禁するんじゃないかな!」
振り返ったら、鬼の形相の朔がいたのは恐怖だった。もっと怖いのはその後で、笑いながら髪を撫でられたことだ。
「髪伸びてきたな。切らないと」
下手をすれば、関係ない所まで掻っ切られるのではないかとすくみ上がってしまった。
携帯は置いていけと言われて置いてきた。GPSが付いてるから。ついでに服も着替え、制服はなぜか奈緒さんによって奪われてしまった。
「大丈夫よ譲くん。変なことには使わないわ。ただ預かってるだけよ、これにもGPSがついてたら困るもの」
「ありがとう、ございます...?」
ぐへへとにやけていたけど何だったんだろう。
理事長と神霜先生にも挨拶したし、残るは家に帰ることだけ。
もうどうにでもなれと後部座席に乗ろうとしたら、ロックをかけられた。出鼻、くじかないで。
「助手席」
「...はい」
車は静かに走り出した。
気っまず。分かってただろ、この気まずさ。なのになんでよりによって......助手席に乗せるの?
家に帰ったら、説教って言われてたよな。朔の怒り方って怖い、だって静かに怒るし。帰るって言ったことと、キス拒否したことと、あ、服剥がれるんだっけ。それは...やめて、ほしいな。見られたくないし、恥ずかしい。
朔の記憶ほとんど戻ったって聞いたけど、どこまでだろう。大事な部分だけ綺麗に切り取られてたら、落ち込む。例えば...告白の、ところとか。あ、だめだむしろ忘れて。冗談で取り繕うとしたのがだめすぎる。
赤信号で止まった時、ふと朔が話し出した。
「......家、すごいことになってる」
「すごい、こと?」
「料理放置、洗濯物放置、掃除放置。家事全般なにもしてない。嵐が起きたのかってくらい、めちゃくちゃなんだ」
「.........」
「なんてだと思う?」
朔は...母さんが亡くなった時からずっと家事をしてきていた。おれが大きくなると少しは手伝いをさせたりしてたけど、ほとんどさせてくれなくて。
だからおれがいなくてもこまらないはずでしょ。
「なんで?」
「美味しいって言ってくれた譲がいなくて、料理する気が起きなかった。
不器用なのに一生懸命洗濯物を畳もうとする譲がいなくて、別にいいかって思った。
自分が音痴だって分かってるから掃除機の音に隠れて歌ってる譲が可愛いのに、いなくてやる気がでなかった」
朔、完璧なのに、おれがいないとだめとか。ありえないから。
「譲がいないと、なにもできない」
なにこの、殺し文句。
「榊田がいいなら、それでいい。ただ...それならちゃんと、譲の口から「別れたい」って聞きたい」
「...」
「他に好きな人ができたなら......善処はする。でも、俺は譲を手離したくないって思ってることだけは、覚えておいて」
顔真っ赤で、頷いた。
次の赤信号で引っかかると、朔は車の外から見えない角度でおれの手を握ってきて、おれも握り返した。
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