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第11話
こくり、こくりと船を漕ぐ。朔の腕の中は暖かい。
「...寝るなら先に風呂」
「ん...」
「一緒に入るか?」
「...いら、ない」
ぐらぐらする重い頭部を朔から離す。安心しきってるせいか、ひどく眠い。
嫌われるとばかり思ってた。知らない人なんかに抱かれた身体なんていらないって。そう思ってたのに、朔は優しく抱きしめてくれた。
話を聞いて、汚くないって触ってくれただけでも嬉しいのにその上あ、あ、ああ...愛してるとか。
「ひゃー...」
風呂場に向かいながら顔を隠した。なぜかって、赤くなってて見れたもんじゃないからだ。
「着替え、置いとくから」
「あ、うん」
そっと洗濯カゴの上に置かれる着替え。なんか大きい気がしたけど、眠くてそれどころじゃなかった。
風呂に入って改めて現実を確認することになる。
「...キス、マーク」
首筋、乳首の横、脇腹、腹、太腿......内太腿、尻、背中。
「.........」
気持ち悪いと、瞬時に思った。いくら寝ていたからと言っても、記憶にないものが身体中に張り付いているのは気持ち悪かった。
体を洗う用の泡立てネットに石鹸をつけ泡立てる。ある程度泡だったらそれを体につけ勢いよく擦る。特に、キスマークのある所を重点的に。
「...消えない」
いっそのこと、これが口紅かなにかで石鹸で取れたらいいのに、と考えたけどそんなの夢のまた夢だった。
消えない、赤い跡が。
ゴシゴシ、と強く擦るのに一向に消えない。イライラして硬いタオルに泡をつけて擦った。
「っ...」
痛い。けど、強めにしたおかげか擦った赤い跡に隠れてキスマークは見えずらくなった。これなら、全身のものも消せる...。ちょっとヒリヒリするけど、コレが消せるなら本望だ。
「は、っ...」
シャワーを浴びると全身が傷んだ。手首の縛られた跡とか、首の絞められた部分とか。あと、強く擦りすぎて皮が...めくれちゃったところとか。
でもお湯のおかげで体の凝りが解れていくのを感じた。
風呂を出て着替えてると、パンツとシャツはあるのにズボンがないことに気づいた。シャツは朔のシャツでだぼだぼで太腿くらいまである。
「朔、ズボンは?」
その状態で出るのが恥ずかしくて風呂から声をかけた。
「ないけど?」
「ない?」
「ない。シャツと下着だけで十分だ」
「......」
いやいや、非常に心許なんだけど...。
「取ってきて」
「そのまま出て」
顔だけ出していやいやと首を振る。いまさらなんだけど、足についたキスマーク擦りすぎて皮むけてるんだった。見られるの、まずい...よな。
「意地っ張りだな、本当に...」
ソファーから腰を上げ風呂場に歩いてくる。
「だ、だめ...!」
咄嗟にドアを閉めたら痛!と声がした。指、挟んじゃったのかもと心配になって開けたら
「捕まえた」
胸に引き寄せられていた。指なんか挟んでいない、わざとだと気づいた時にはもう後の祭り。
「...時間妙に長いと思ってたけど、やっぱり」
足の剥けてる部分を触られて唇を噛んだ。
「痛いだろ、こんなボロボロになるまで擦って...」
「キスマーク...嫌だったから」
気持ち悪くて、それをどうしても消したかったと続けた。
次に朔が発したのは。
「だったら上書きしてとでも言えば良かっただろ?」
「...?!」
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