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第13話

簡単に手当が終わると、朔は寝ようか、と言ってきた。疲れてきていたけど、聞きたいことがあるって断る。 朔は隣に座ってくれた。 「雪姫と先生は?ふたりは大丈夫?」 「ああ、ふたりには一時的に仮のアパートに引越してもらってる。金はこっち持ちだ」 「...よかった」 雪姫は大事な友達だし、先生は......まぁ先生だし。無事ならよかった、と安心する。安心すると、欠伸がでた。 「朔の会社は大丈夫?」 「そっちにも根回ししてある。全部奈緒さんがしてくれたんだけどな」 うん、不安が徐々に消されていくのを感じる。雪姫も、先生も、朔も大丈夫。ここまでやってのけるなんて。朔はやっぱりは完璧だ。 「あ、と...あの、........」 あと聞きたいことがあるんだけど、思い出せない。目がしょぼしょぼする。あれ、体が熱い? 「ほら、眠いんだろ。寝ろ」 「...や」 自覚してるんだけど、おれ眠くなると言動が色々と幼くなる。とにかく、「やだ」とか「だめ」とかが多くなって、次の日後悔することが多々(たた)ある。 きっと、眠いから体がぽかぽかしてるんだ。 「譲?」 「......ねむくない。聞きたいこと、あ、...る」 「じゃあ言って?」 「んん...」 (かぶり)を振り必死で頭を起こす。聞きたいこと...あ、そうだ。 「ぅ、...ゆ、りこさん......のこと」 「百合子さん?」 そうだったはず。榊田に行く前、朔は百合子さんと話したけど、かなり怯えた様子だった。それがいまになって思い出され、気になる。 「百合子さんは......行方が、...譲?」 え、なに?行方が?って聞き返したかったのに、体が傾いて前に倒れた。朔はおれを見事にキャッチしてくれて、ソファーの前のテーブルに頭をぶつけることはなかった。 「っ、熱い」 「あつ...」 熱く、ない。むしろ寒くて仕方がない。体が震えてることにいま気づいた。そう言えば、髪の毛適当に拭いて水滴とっただけで、乾かしていないんだ。 「熱が出てたのか。まぁ疲れて熱出ても不思議じゃないか...」 「さ、むい」 「ベット、連れてってやるから」 横抱きにされ、宙に浮く。この「お姫様抱っこ」も何回もされて慣れてしまった。 ぼんやりと朔を見る。寒い、熱い、眠い。寂しかった、会いたかった、やっと会えた。汚いって言わなかった、嬉しい。別れようって言われなかった、暖かい。捨てられなかった、胸が冷たくない。 やがてどちらかの部屋に着いて、朔はそっとベッドに降ろしてくれた。 「こう...」 腕を伸ばせば、もちろん、朔は答えて抱きしめてくれる。ついでに撫でて、だなんて甘えても嫌な顔せず髪を撫でおでこにキスを落としてくれた。 「あい、たかった...」 「おかえり...譲」 「ただ.........ぃま」 そこでおれの記憶は途絶えている。 最後に覚えているのは、おれを抱きしめる朔の体が強ばっていたことだけだった。 それは変に力が入っていただけなのか、それとも。 その後おれは、三日三晩熱で魘されたらしい。

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