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第15話
side朔
譲は渋々薬を飲み込んだが、寝たくないと言う。
無理もない、この7日間でかなり辛い目にあったんだから悪夢でも見るんだろう。
「でも寝ないと良くならないぞ?」
「...やだ」
やだやだ、と駄々をこねる割に目が閉じかけている。ほっといても寝てしまうだろう。
「子守唄歌ってやろうか?」
いらない!なんて反応を期待して言ったら、「ほんと?」と涙目で訴えられた。なんだろうな、この良心が疼く感じ。
「石川さ〇りがいい...」
「どこで感化されてきた」
石川さ〇りって、演歌歌手...だよな。あれか、あの人達の影響か。
「ご飯の時...演歌、流れてて」
「さすがに演歌は歌えないな...」
「............歌ったらびっくりする」
歌えないって分かってて所望したのか、こいつ。
くすくす笑う譲の目はさっきよりとろん...としてて、すぐ眠ってしまいそうだ。ほら、また船漕ぎだした。
「寝ていい」
「ううん...寝ない」
「眠くないのか?」
「ね、...くない」
「途切れてるし...眠いんだろ?」
「....ち.....がう」
「じゃあなんで船漕いでるんだ?」
「ううう......」
ぴた、と前後する動きをやめたのも一瞬で、ふとした時には船漕ぎだす。ベッドに無理にでも沈めるべきか、と本気で考える。
「いや、寝たくな......こ、わ......い......」
「譲?」
薬が効いてきたらしく、譲はぱたんとベッドに倒れた。
「寝たか...」
寝てくれたことに安心し、だが反対に不安にもなる。ずっと、魘され続けるのかと思うと不憫で仕方がない。
自分が昔に蒔いた種のせいで譲が傷つくのは見たくない。譲に近づくもの、害をなすものは全て排除してやりたいが......
「むりだな」
そう、無理だ。それはつまり、一生腕の中で温めてやりたいということ。監禁と同じだ。譲の求めるもの全てが俺に向けばいいのに、なんて狂気じみている。
譲の口から、不本意なのだが百合子という名前が出た時、どれだけ面白くなかったか。
それに.........百合子さんは、行方不明だ。記憶がなくて答えようにも答えられないが、俺を階段から突き落としたのは百合子さんらしい。
百合子さんに関しての記憶、突き落とされた直前の記憶、殴られた記憶。あと、譲に関しての記憶...とか、まだ色々とない記憶がある。
百合子さんのことは、もう...なんというか、どうでもよくて、それよりも譲のことを大事にしたいという気持ちが勝っている。
大事にしたい、だからこそ、いまの関係の在り方を考えるしかないんだ。
再び歪み出した譲の顔を見て、延々と、悩んでいた。
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